寝床に射しこんで顔を濡らす光の強さに季節の移り変わりを見た。素麺を煮こんで食べながら日記を読みかえした。なにかきっかけがあったとも思えないが、十一月のなかばからあきらかに記述の精度があがっていた。とはいえ残しておくに値しないことには変わりないので二十四日の分まで削除した。Duke Ellington『Ellington At Newport』を流しつつ日記を書いた。書き終えて風呂を洗いにいくと、浴室はクリーム色の光でぼんやりと包まれていた。窓をあけるとさわやかな風が流れこみ、新緑の、あるいは赤橙の葉が揺れるのが見えた。
Daniel Barenboim & West-Eastern Divan Orchestra『Tchaikovsky / Schoenberg』を流して『失われた時を求めて』第四巻を読みはじめた。あいだにベッドの上での腕立て伏せを複数回はさむと、だらりとなまっていた筋肉が張りと熱を得ていくのを感じた。プルーストをきりのいい頁まで読むやいなや、磯﨑憲一郎『往古来今』に移り、わずかに残していた「見張りの男」を最後まで読んだ。見事だった。書く当初から念頭にあったというよりは期せずしてという感を受けたが、『族長の秋』にいくらか接近しており、同時にカフカ『城』のような構築性から離れてその場の思いつきを継ぎ足していくような記述の感触もあった。リビングに上がると母は帰宅していて、冷蔵庫にあった亀焼きをあたためるので労働まであと二時間ではあまりよくないと思いながらも半分食らった。自室にもどり、Danny Grissett『Promise』を流して「見張りの男」から二箇所書きぬいた。