2014/5/28, Wed.

 最近はいつも起きたときからからだが痛い。夜更かしをしていなくても痛い。だから今日も痛かった。"Kew Gardens"に苦戦していたら二時になっていたから、アラームは九時にした。それより前に目が覚めたけれど、鳴るまで待った。
 フライパンに焼き豚と菜っ葉が炒めてあった。冷蔵庫にマグロが一枚残っていたから、父は一枚しか食べなかった。それは食べないで、菜っ葉とインスタントのみそ汁と米を食べた。
 十一時くらいまでだらだらして、きのうの日記を書いた。窓をあけて、Miles Davis『'Round About Midnight』を聞きながら書いた。そうすると十二時になった。外は明るくて、風は軽く乾いていた。雲は止まっていた。本当に動いていないみたいで、見ていると雲が動いているのかこっちが揺れているのかわからなくなった。きれぎれではなくて、無秩序につながって広がっていたけれど、青い空も見えた。雲が大きい日は空の青が濃い気がした。
 窓を閉めてベースを弾いていると部屋にどんどん熱がたまって、一時半くらいになった。上にあがって食事にした。マグロのソテーと米とみそ汁を食べた。食べながら食べ物の熱が顔やからだにうつって汗が出た。これが夏だった、と思いだした。空気はなまあたたかくて、熱が顔にまとわりついて何もしなくても汗が出て、ときどき風が吹きこんで涼しくてレースのカーテンがスカートみたいに持ちあがって、それか逆に網戸に吸いつけられて、温度計は三十度だった。もうすこし気温があがってセミの声がくわわれば夏が完成する。安っぽい棒アイスを食べて、そのあとからお茶を流しこんでいると母が帰ってきた。あつい、あつい、と言いあった。赤いTシャツの背中に白いすじがついていた。
 部屋でプルーストを読んだ。窓もドアもあけているとかなり涼しかった。三時になったから、部屋のなかは暗くはないけれど、陽ざしもそんなに入りこんでこなかった。このあとなにをしたのかあまり覚えていない。たしか四時ごろになってアイロンをかけた。それから部屋で三宅誰男『亜人』を読んだ。たぶんこのときに読み終わったけれど、もしかしたら夕食をつくったあとだったかもしれない。五時ごろに上にあがってホイコーローをつくった。本当はキャベツを炒めて取りあげて肉を炒めてから戻す手順だったけれど、めんどうだったからまとめて炒めた。それから部屋で古井由吉『鐘の渡り』を読んで、夕食にした。
 夕食のあともまた読書をした。風呂に入りながら、こんなに読んでばかりいていいのかとすこし不安になった。読んでばかりではなくて、もっと書いて考えなくてはいけないのかもしれなかった。風呂に入っているあいだはいつも考えごとをして、行動は無意識で習慣で自動で動いているから、よく頭を洗ったのかどうかわからなくなる。部屋にもどってからやっぱり思いだせなくて、だけど髪が湿っていたから洗っていた。夜になって涼しかったから窓を閉めてPablo Casalsのバッハの無伴奏チェロ組曲を流した。ディスクの一枚目が終わるとAlbert King & Otis Rush『Door To Door』にかえて、『鐘の渡り』を読みつづけた。今日中には読み終わらないと思っていたけれど、おもしろくて最後まで読んでしまった。なにがおもしろいのかはよくわからなかった。
 散歩に行った。汗をかくからやめたほうがいいと言われたけれど、汗はかかなかった。涼しくて、ときどき肌寒いくらいだった。夏のなまぬるくて気だるい夜はまだ遠かった。玄関を出るとめずらしく目の前の家に明かりが灯っていて、真っ白い光が窓にも扉にも満ちてあふれて広がった。歩いていると風を感じるけれど、林は鳴らなかった。木の葉の先が揺れるのも見えなくて黒く固まっているようで、そのむこうの空も暗いから星がよく見えた。片側が林に接している坂をあがっていると、土か草の湿ったにおいが立ちあがった。表通りは車が通って、光が走っているみたいだった。神社のほうへ行く坂の上からひとり下ってきて、こっちが来た道に入っていった。歌をうたっていた。タクシーの事務所でおじさんが床を洗っていた。人間はそのふたりしか見なかった。坂をおりていると歌をうたっていた人がカーブから現われてびっくりした。幽霊みたいに青白い顔をしていたけれど、こっちもそうだったかもしれない。まだうたっていたから、きっとずっとうたいながら歩いていた。そのすぐ先で、道のまんなかに黒い影が生まれたと思ったら、滑るように動いてどこかに消えてしまった。たぶん黒猫だった。
 部屋にもどって『鐘の渡り』の感想みたいなものを書きなぐった。そうするともう十一時を越えて、Joe Lovano『Tenor Time』を聞きながら借りたCDの情報を記録した。歯をみがいてベッドに移って、寝る前にプルーストをまた読んだ。シャルリュス男爵は変な人だった。たぶん零時半くらいには電気を消した。つかれていたからすぐ眠れそうだった。