2014/5/29, Thu.

 七時のアラームで覚めたけれど、暑くてだるいからまた眠って夢を見た。真夏の野球場からはじまった。大学のなかにあるグラウンドの客席にいて、上から見下ろしていた。なんの抵抗もなく太陽が照って、人が多いから熱気がすごかった。トイレに行こうと階段をあがって、建物のなかに入った。荷物を忘れてきたことに気づいたけれど戻るのはめんどうだった。トイレが見つからなくて探しているうちにI.Kに会っていっしょになった。大学の建物はだいたいつながっていて、通路を通ると高校の廊下に出た。トイレはあったけれど、制服を着ていなかったし、部外者が使うのはまずいと思って通りすぎた。反対側に並ぶ教室のひとつに、ピンクのパーカーを着た人がひとりでいた。廊下を先まで行くと昇降口に出て、A先生がいた。こっちのことを覚えていないだろうと思ったら話しかけてきたから驚いた。覚えてるよ、放課後にNに数学を教えてやっていたろう、と言って、それでこっちもそうだったと思いだした。そのあとも誰かと会ったりいろいろあったけれど忘れてしまった。
 からだが痛かった。心臓の下のあたりが痛くて、水が足りなかった。起きてトイレに行ったら時計が十一時だった。この四時間でいろいろできた。A先生は高校ではなくて中学の先生で、だからNのことは知らないし、Nに数学を教えたことはなかった。名前が本当にAだったかもあやしかった。
 冷蔵庫に素麺があったけれど食べなかった。ホイコーローの残りをあたためて米と食べた。お茶を飲んでゆったりして、部屋にもどって昨日の日記を書いた。Joe Lovano『Tenor Time』を聞いた。"Ruby, My Dear"はすごくいい曲だからMonkはすごい。三時くらいまでしかメモしていなかったからそのあとに時間がかかった。十二時半ごろに母からメールが入って、洗濯物に気をつけろと言った。朝はこれでもかというくらい晴れていたのにいまはくもっていた。上にあがってベランダに出ると、雲はうすく青く濡れていたからもう洗濯物を入れた。ついでにサイダーを冷蔵庫から取って部屋で飲んだ。書き終わると一時前だった。今日の日記も途中まで書いた。遠くのほうで雷が響いたからもうすぐ降りそうだった。
 タオルをたたんで、風呂を洗って、皿も片づけたあとは今日も読書の時間だった。いつもどおりプルーストを読んだ。空は白一色に暗くなって、雷の間隔はせまくなって音も近くなった。鳴ると鳥が声をかわして、悲鳴みたいに叫びながら一羽飛びたった。不思議に花のにおいがただよってくるときがあった。雷で揺れた空気に乗ってどこかからやってきた。『失われた時を求めて』の六巻を読み終わった。あっという間に一時間がたっていた。
 降りそうで降らなくて、雷もどこかへ消えてしまった。三時前に上にあがって、母が買ってきたドーナツを食べた。胃がもたれるでもないけれど、ひとつ食べて満足した。Andre Ceccarelli『Carte Blanche』を流して古井由吉『鐘の渡り』を書きぬいた。窓を閉めるとやっぱり暑くて、ぬるさがじわじわと部屋をつつんだ。ドアだけあけた。半分くらい書きぬいて四時前だった。足をのばして上体をたおして、からだをほぐしてから腕立て伏せをした。腕を曲げるときは楽で、伸ばすときに力がいる。肘から肩までぎゅっとかたくしぼって、足まで汗をかいた。
 上着を着ると暑いけれど外は涼しかった。空に雲はなくなってさらさらとうすい青で、西の空はほとんど白だった。その下にある林に光が射して木の葉に触れると、そこだけ赤みがかった黄緑になった。見ていると目がかすんで、一瞬いまどこにいるのかわからなくなった。車に乗った。道にオレンジ色の光が宿って、それにはかならず影がついてきた。駅前でおろしてもらった。シャッターが閉まった雑居ビルの前でネズミを見た。ガラクタの隙間から飛びだして、まばたきするあいだにビル横の隙間に消えてしまった。教室の扉は西向きだから、その前にもオレンジ色がたまって、振りむくと太陽が光っていた。
 四時間くらい働いた。つかれた。
 眠くて歩きながらあくびが出た。なんとなく表通りに出た。帰宅時間だから車は外れに行くほうが多い。他の音がないから車の音ばかり聞こえて、過ぎてからも長く尾をひいて伸びていった。それが消えると足音が残った。街灯と同じ色のヘッドライトが街灯の下に同じように並んで、たまに信号の青や赤が浮かびあがって、家にぼんやりと投げかけられた。明かりは夜をさえぎるから、裏道のほうが空がよく見える。星はあんなに小さくて暗い道にぽつんと立った電灯の白いひろがりにも消えてしまうのに、実際にはいま立っている大地よりもずっと大きいかもしれない。夜空はわだかまっていて、星はうすかった。ジンジャーエールの缶を買って帰った。細かい羽虫が自販機の黄色っぽい明かりにたくさん群がっていた。
 夕食をとって風呂に入ればどうしてももう十一時になってしまう。そこから書きぬきをする気力もなかった。歯みがきをして、古井由吉『蜩の声』をほんのすこしだけ読んだ。日記をおおざっぱに下書きしたあとは、柄谷行人『反文学論』を積んだ本の上から取って、一時くらいまで読んでいた。カーテンを閉めていても窓をあけると途端に涼しさが入りこんできた。