2014/6/10, Tue.

 九時半に起きた。米と野菜スープを食べていると電話があって、出たら年金機構から委託を受けているなんとかかんとかだった。三月分を払ったか、と聞かれた。たぶん払った。いつ払ったか、と聞かれて、そんなことはいちいちおぼえていない。行き違いだったら申し訳ないですが調べてみてくださいと言われた。部屋にもどって領収書を見たら三月分は払ってあったけれど、払ったのはついこのあいだの五月の終わりだった。だから期限は過ぎていた。四月分もまだ払っていなくて期限が過ぎている。
 昨日の日記を書いた。階段をあがる音がして、客かと思ったらインターフォンを鳴らさないから父だった。父は昨日研修でどこかに泊まって、今日は休みを取った。上にあがっておかえりと言って、陽がすこし出ていたからタオルだけベランダに出した。部屋にもどって、柄谷行人『意味という病』がすこしだけ残っていたから読んだ。それからAhmad Jamal『But Not For Me』を流しながら蓮實重彦『魂の唯物論的な擁護のために』を書きぬいた。最初の高橋源一郎との対談を見ただけでもう十二時になった。
 風呂を洗った。風呂桶のふたの裏がぬるぬるしていたからそれも洗った。かびの黒い点がびっしりではないけれど直線に何列か並んでいた。お腹が減っているような減っていないような感じで、ゆで卵をひとつ食べた。父はソファでipadみたいな端末をいじっていた。そのうち立ちあがって洗面所へ行って、閉めた扉の向こうからシャワーを浴びる音が聞こえはじめた。
 一時過ぎまでだらだらしたり、ギターを適当に弾いたりした。それから風呂に入った。パソコンを見てつかれた目を閉じて、こめかみのあたりや目のふちの骨を押した。あけると、ものの輪郭がくっきりしていた。目がつかれていると視界が目の前のものに凝縮するような感じでまわりが狭く見えるけれど、広くなった。顔の骨や首のうしろと肩もほぐしながら湯に浸かった。出て歯みがきをすると、つかれるからパソコンは閉じた。パンツ一枚のままベッドで柴崎友香『ショートカット』を読みはじめた。読んでいると、網戸の隙間から防災放送が聞こえた。小学生が、下校する時間に、なりました、子どもたちの、安全を、見まもってください、という声が山や町にこだましていくつも重なった。それが消えると増水した沢の水音が残った。ふたつ目の「やさしさ」まで読んでからだを起こすとだるかった。風呂の前の腕立て伏せ以外には動いていないのに、運動したあとみたいだった。たぶんお腹がすきはじめているからだった。
 スーツを着て、リビングのソファに座った。スラックスのすそのほうにこまかくおうとつが出来て、すこししわになっていた。このあいだの雨の日に濡れたまま放置したからだった。脱いでアイロンをかけるのは面倒だった。『ショートカット』を読もうと思ったけれど、Mさんのブログを読んで、さっき書いた自分の日記も読んだ。それから今日の日記を下書きした。三時半前になって出ようと立ちあがるとだるかった。たぶんお腹がすいて血糖値が下がっていたから飴を探したら、熱中症対策用のタブレットがあった。すこししょっぱくて、レモンの風味がして、あまりおいしくなかった。
 一時雨がぱらぱらしていたけれどもうやんでいた。雨をなめていたけれど、歩くだけですこし息があがっていた。それほど暑くはないしふらふらはしなかったし不安もなかった。前の林はもう草が茂って通りにくいから避けた。家から西の十字路から坂をあがった。そこにも増水した沢の音が満ちていて、ガードレールに寄って見下ろすと音が浮きあがってきた。二メートルくらいの段差を水が落ちているところが木の隙間から見えて、落ちたところから白い泡が生まれて炎みたいにゆらゆら揺れていた。水は透きとおっていて浅かったから石のかたちや灰色や赤茶色がよく見えた。視線を近くにもどすとガードレールが見えて、そこのガードレールが緑色だということをはじめて意識した。緑色の上を小さいアリがたくさん這っていた。
 駅のホームに立つと陽がすこし射していて、暑かった。空はほとんど雲ばかりだった。うすい青のなかに雲が溶けていて、灰色の雲にも青が含まれていた。ホームで電車を待ってひと駅乗って、電車を降りて階段を降りて通路を歩いて階段をあがって、改札を通って出口を出るまでのわずかなあいだ、Bob Marley『Live!』を聞いた。Bob Marleyの音源はこれしか持っていない。
 四時間くらい働いた。いつの間にか過ぎた感じだった。面倒だった。
 帰りは歩いた。裏道でセミが一匹鳴いていた。空き家の壁かそのまわりの木が音のみなもとだったけれど、暗いからセミは見えなかった。セミは一匹でもうるさくて、そこにいると空気の振動が顔をなでた。自販機でジンジャーエールの缶を買って帰った。空は星も月もないくすんだ色だった。
 歩いて帰ったら夜だけれど汗をかいていた。夕食を取って入浴して、蓮實重彦を書きぬいた。やたらと時間がかかるから、返却日の十八日までにすこしずつ進めることにした。柴崎友香『ショートカット』を読みすすめてから眠った。