2014/6/28, Sat.

 七時半に起きるはずが九時半になった。フライパンにあったハムだけ食べて、図書館で借りたCDのデータを記録していると、もう時間がなくなった。本は読めないし、日記も書けなかった。風呂だけ洗って、十時半前には家を出た。雨が降っていた。けっこうな降りで、地面に落ちた粒がはじけてすそをまくった足首が濡れた。傘は小さくて、背負ったリュックを濡れないようにすると、雨が斜めに入りこんでからだの前面が濡れた。湿った熱が空色のシャツを濡らしてなかにこもった。
 電車のなかではMiles Davis『Four & More』を聞いた。よく寝たから眠くならなくて、集中して聞けた。一糸乱れぬ緻密な演奏ではまったくなくて、おのおのが競いあっているような火花散る演奏だった。若さがはちきれるようなドラムが特にすごかった。本を読む気にはならなかった。
 土曜日の午前中でも立川は人ばかりだった。駅前広場から道路の上を渡って高島屋のほうへいく通路の入り口で、犬の飼い主を探している女の人がいた。いつもそこにいた。"There Is No Greater Love"を聞きながら図書館へ行った。この曲のメロディを聞くといつも少しなつかしい気分になった。図書館の入り口の屋根の下に入ると、隅のほうに電話をしている女の人がいて、じろりと見られた。曲を最後まで聞きたかったけれど、その場にいるのに気が引けたから途中でとめてなかに入った。図書館のゲート脇には地元でも立川でも消毒液が置いてあって、いつも使う。何年か前にノロウイルスにかかったことがあって、それから出先で見かけるとだいたい使う。ゲートを通って左側に廃棄本がワゴンにのせてあった。「文學界」の二〇一三年三月号があって、この号は蓮實重彦黒田夏子が対談した号だから前から読みたくて、リュックに入れた。「現代詩手帖」の北欧の詩を特集した号もあったけれど、それは取らなかった。新着図書にはなにかいろいろあったけれど、何があったのかおぼえていない。ジャック・ランシエールのなにかがあった。みすず書房から出ている『世界の見方の転換』とかなにかそういう名前のいわゆる科学史的な本があった。二巻目と三巻目があって、一巻一巻が厚くてどっしりしていた。あとは忘れた。CDを返して、新着を見ると、SonyのLegacy Recordingsシリーズのなにかがあったけれどなんだったか忘れた。ジャズを見て、Thelonious Monk『Monk's Dream』を取った。あとの二枚はロックかポップス系にしようと思って棚を見ていると、The Bandにするかと思いついて、『Rock of Ages』という二枚組のライブ盤と、有名な『The Last Waltz』にした。本は一冊だけ借りることにした。ベケットを借りようという気分でいた。フランス文学の棚に行くと、『ワット』『マロウンは死ぬ』『名づけえぬもの』『蹴り損の棘もうけ』があった。そのなかのどれかにしようと思って発表年を見比べていたけれど、棚の下のほうに目を移すとミシェル・レリスの『オランピアの頸のリボン』があって、見ていると借りたくなったからそっちにした。
 日記を下書きする時間もなかった。高架歩廊から階段を降りて、モノレール線路下の広場に出て、ファミレスに着いたのは十一時四十五分ごろだった。誰も待っていなくて、すぐに通された。AくんとKくんに先に入ったとメールを送って待つあいだ、ムハマド・ユヌス『貧困のない世界を創る』の読み終わっていない残りを適当に拾い読みした。ふたりが揃ってやってきた。ふたりはそれぞれスパゲッティとチキンソテーを頼んだけれど、こっちはあまりお腹が減っていなかったからとりあえずコーンポタージュを頼んだ。食べながら本について話をした。いつものことでそのうち話題がずれていった。少しお腹が減ってくるとフライドポテトを頼んでつまんだ。三時になるとおやつでマンゴーとドラゴンフルーツのサンデーを頼んだ。ドラゴンフルーツは少し酸っぱくてよくわからない味だった。三時を過ぎると次回の話になった。Aくんが小説が読みたい、いわゆる純文学系のものが読みたい、というから、中上健次古井由吉では、とすすめた。中上はまだ一冊も読んでいないから読みたかった。本屋に行って見た結果、古井由吉の『杳子・妻隠』になった。版が古くて文庫はないからAくんはその場でamazonで注文していた。こっちは自撰作品の一巻を持っていたからちょうどよかった。駅に向かって別れた。Kくんは立川をぶらぶらするといった。Aくんは秋葉原に向かうらしかった。こっちは帰路について、電車のなかでは眠っていた。
 帰りは雨はほとんどやんでいたから傘はささなかった。家につくと母はいなかった。父も昨日の帰りから実家に行っていていない。冷蔵庫にあったキュウリとツナのサラダとチーズケーキとバナナを食べた。たしか食べ終わったころに母が帰ってきた。昨日の日記を書いて、もらってきたばかりの『文學界』から蓮實と黒田の対談を読むともう七時前だった。風呂に入って、ワイシャツとスラックスに着替えた。ひげが昨日か一昨日そったばかりだけれどもう伸びはじめていて、あごと鼻の下を細かく埋めているのが気になって、いちおうそっていると電車に間にあわなくなった。歩いていこうと思ったら母が送っていくというから甘えた。ひどく眠くてからだが重かった。
 二時間と少し、職場の会議に参加した。普段の仕事よりはつかれなかった。
 家を出てから帰りまでまた雨が降っていた。家につくともう十一時近かった。味の薄い鍋を食べて、面倒だから風呂には入らなかった。一六〇ミリリットルの小さい缶のジンジャーエールを飲んだ。コップ一杯で終わるからちょうどよかった。『文學界』を少し読んで、何をするでもなくだらだら夜更かしして『オランピアの頸のリボン』を数ページめくってから眠った。