悪夢めいた不安な感触で胸をしばりつけられてふたたび落ちた眠りのなかから甲高いアラーム音によって一瞬で覚醒するとあけたおぼえもないカーテンがあいていてその先には揺れもうねりもしないまったくの空白が茫洋と広がっておりそれにしばらく目をやってから身を起こして地上の色味がいくらかなりと目に入ったところではじめて雨が降っていることを知った。
食事をすませていつもどおりベッド上で読書を進めるその合間の非現実感に不穏をおぼえながらまどろみに誘われて目をつぶると夢になりきらない自動筆記がはじまりあたかも眼前に透明な本のページがあるかのように読むと同時につくられ浮かびあがっていく文字群は文法が破綻しておりある程度は自分で操作しているようでもあるがとどめることはできずにただ流れていって記録できたらと思うものの意識がさめてしまうとふっとはじけて一語も残らずに消えていく。
昨日まだ書けると確認したつもりが率直に言って一日経てばもうすでに書くことにうんざりしつつあるもののさりとてさしあたり他にやりたいこともできることもやるべきこともなくまた望んだとて容易に逃れられない予感もひしひしと迫る身を湯に沈めていると書くことに飽いてしまった人間を人格分裂的に二人用意してひたすら対話させるテクストのアイディアを思いついたのだがしかしまだ書けまいという確信があるのは本当に飽きるほどに書き続けてはいないからでそもそもまずもって作品と呼べるものを一つもつくっていないことに気づいてまたうんざりする。
四時間ほど働いてからもいすわることになった室のなかで一秒一分を確実に刻む時計を眺めていままさに時間が過ぎ去っていくことを視覚的に確認しつつしかしどうしても感覚としては実感できないままに自分は一体ここでなにをしているのだろうといくばくかの疎外をおぼえながら一時間を過ごしたのちについた雨降りの帰路にて濡れた路上に宿り滑っていく自動車の二つの光と中空にもやめいた薄白さを浮かばせてやわらかく漂う雨粒を目にすればまたいつの間にか終わろうとしている一日から小さな乖離めいた驚きを受け取ると同時に常に事後的にしかとらえられない時間の流れのその摩擦のなさ抵抗のなさに苦しさをも感じるがともかく続けるほかにできることもないといつもながらの結論を無批判にくりかえしては風に舞って傘の下をくぐってくる雨のなか坂をくだった。