何度か目ざめた。そのたびに眠気にとらえられて、気づいたら十一時半だった。驚くほど寝てしまった。眠りすぎて頭が痛かった。ゆうべは風呂をすませたあと、わりとはやく寝た。古井由吉をめくっていたらいつの間にか目をつぶっていたから電気を消した。上へあがった。なんもつくっていなくて、ただ素麺がたくさんパックに入っていたからそれだけ食べた。めんつゆを用意して、わさびとねぎを入れた。なんとなくすっぱいような味がすると思ったら、ねぎがいたんでいたみたいだから茶色がかったのを外に出した。
部屋で『古井由吉自撰作品一』をめくった。「杳子」はきのう読んで、「妻隠」も読み終わった。「古井由吉 蓮實重彦」で検索して出てきたページをいくつか読んでいると、母が帰ってきた。死にそうに暑い、といった。上にあがってパックに入っていたスイカを食べた。母が炒めたナスを半分もらって、桃もむいた。薄皮を手ではいで実を適当にそいでいった。母も隣で、仏壇にあがっていたやつを同じように切っていった。パックに入れてテーブルに持っていって食べた。冷蔵庫に入っていたのは実が白くてすっぱくて、仏壇にあがっていたほうが赤いすじが入って甘かった。髪をしばった母は意外と元気そうだった。よくこの炎天下で歩きまわってきて起きていられる、といったら、眠りたいよ、と答えたけれど、やっぱりそこまでくたくたになってはいなかった。なんだかんだで体力と気力はたいしたものだった。
部屋にもどって日記を書いた。立ちあがって伸びをすると、血がまわって頭の端がどくどくいった。書き終わるとギターを持ってだらだらした。それからベッドに移って日記を下書きしているとメールが来た。来週のシフトだった。月曜から土曜まで六連勤だった。事前に承知していたからもうあきらめていたけれど、そんなにがんばれるかわからない。
母に呼ばれて上にあがった。電話をしている脇で、こたつテーブルの上にアイロン台を乗せて準備した。表に車がとまった音が聞こえていた。布団屋が来るのは知っていた。階段をあがる音がして玄関のほうを見ると、インターフォンも鳴らさずにむっつり立っている影が玄関とリビングの境に張ってあるレースごしに見えた。すいません、いま電話してまして、といった直後に母は電話を中断した。玄関で話している声をうしろにして、シャツにアイロンをかけた。終わると台所に移って、夕食のおかずをつくりはじめた。玉ねぎを切ると、ひとつはなかが茶色く腐りはじめていた。布団屋さんと母は商売の話が終わって、盆や親の法要の話題に移っていた。麦茶でも出すかと思ったけれど、出しゃばりたくないからやめた。十分後にかけ直すようにいっていた電話が鳴って、母が話を切りあげようとして冷蔵庫からあげる飲み物を探しているうちに電話は切れた。それでまたしばらく会話が続いた。帰ったころには牛肉をパックひとつ分切り終わって、玉ねぎとピーマンを炒めはじめた。母はリビングのテーブルでまた電話をかけた。火を使っているからどうしたって汗は吹きだした。砂糖をふって醤油をたらしてしばらく炒めて完成させた。電話を終えた母が畑にいくあいだ上にいてくれといった。たいしてお腹も空いていないけれど、もう食べることにした。素麺はまだまだあまっていた。部屋から西きょうじの本を持ってきて読みながら食べた。食べ終わってもソファに移って読みつづけた。陽は沈んできたけれど暑さはやわらぐどころか粘りを増してからだにまとわりつくような気がした。文字がぶれて意識が浮かびあがって頭の隅が冷えるような瞬間があった。母が帰ってくるとメロンを食べることになった。半分に切ったやつを母は隣のTさんに持っていった。残った半分をさらに半分に切って皿にのせてすくって食べた。甘くてぴったり食べごろだった。
下におりてからはミシェル・レリス『幻のアフリカ』を読んだけれど、途中でなにかを調べるためにインターネットをさまよいはじめて時間をつぶしたくせに、なにをしていたのかおぼえていない。しばらくして、盆の送り火をやるために外に出た。ヒグラシの鳴く声が林のあちこちで立った。数はすくないけれど、不思議とふくらみを帯びて響きわたった。おがらを燃やして線香をつけて、それを仏壇にあげてから部屋にもどった。Radioheadが聞きたくなって、窓を閉めてエアコンをつけて『The Bends』を流した。ベッドの上で手の爪も切った。どうも涼しくならないと思って二十八度から二十五度に下げたけれどそれでも変わらないと思って見たら暖房だった。冷房なら二十八度でも充分涼しかった。音楽をthe pillowsに変えてうたったあとに風呂に入った。いきなり湯船に入るとくらくらしそうで、マットの上でしばらくからだを流したり、冷水シャワーを浴びたりした。水風呂が懐かしくなった。小学生のころ以来やっていない。
部屋にもどってまたエアコンをつけてthe pillowsをうたった。満足するとエアコンをとめて窓をあけた。暑さがまたたく間にもどってきた。Art Blakey & The Jazz MessengersがCafe Bohemiaでやったライブ盤を流して、日記を下書きした。それから中断していたレリスを読んで書きぬきし、そのままプルースト、『ディラン・トマス全詩集』と読みつづけた。BGMは『At the Jazz Corner of the World』に変えていたけれど、十一時半でとめた。プルーストもディラン・トマスも書きぬきしたいところはあったけれど、気力がなかった。歯をみがいて、口をゆすぎに洗面所へ立つと、一日何もしていないようでも腰のあたりが重かった。部屋にもどると、途切れ途切れにあがっていた虫の声がなくなっていて静かだった。扇風機と時計の音が聞こえた。
ディラン・トマスをまたすこし読んで、十二時半には電気を消したけれど、当然のように眠れなかった。一瞬まどろんで目をさますと、窓の外からぽつぽついう音が聞こえた。雨はすぐに強まって台風みたいな降りになった。窓を閉めて、しかたないからエアコンを入れた。一時間のタイマーを設定した。暗い部屋のなかでときどき目をあけながら息をついていると、一時間は意外と長く感じられた。それでもやっぱりすぐに過ぎてしまって、もう一時間エアコンを延長した。まったく眠くならないくせにからだはつかれてきていたから、薬を飲んだ。そうして布団にもどるとようやく意識が消えた。