2014/7/17, Thu.

 十時ごろ目ざめた。目をあけて時計を見た瞬間に、八時や七時に一度で起きられないことに苛立ちを感じた。上へあがった。顔を洗って口をゆすぐとのどにひっかかりがあった。チャーハンとゆうべの肉の残りがあったからあたためて食べた。西きょうじ『英文読解入門』は関係詞や比較のあたりだった。きのうとちがってそれほどの暑さでもないけれど、昼ごろからまた暑くなるような気はした。
 お茶を飲んで一息ついてから日記を書きだした。Art Blakey & The Jazz Messengers『At The Jazz Corner of the World』を流した。メモしてあったから日記は十一時には終わった。上にあがって、陽が出ていたから洗濯物を出して、ついでにパックに残っていたメロンを食べた。甘美そのものだった。昔からメロンが好きだった。小学校の給食でメロンがあまると必ずジャンケンに参加した。それだけではなくて、食べられないクラスメイトから譲ってもらうように事前に根まわしを取りつけていた。I.Sはメロンが嫌いでよくくれた。そのSもいまは医者の卵で、このあいだHやYとの飲み会で会ったFさんとつきあっている。
 部屋で読書しはじめた。『失われた時を求めて』八巻はいよいよシャルリュス男爵の哀しい滑稽さが垣間見えはじめた。ミシェル・レリス『幻のアフリカ』を読みながら、腕立て伏せ、ストレッチ、スクワットをした。きのうくらい暑いと筋トレもやる気にならないけれど、今日はまだ平気だった。音楽はリピートしていた『At The Jazz Corner』が終わって、『Buhaina's Delight』を流しはじめた。例によって下半身は裸だった。全裸で過ごす人の気持ちがわかりつつあるかもしれない。
 古井由吉を読んで一時半を過ぎた。洗濯物をしまってタオルをたたんだ。そのときになって仏間のほうにかかったバスタオルに気づいて、いまさら外に出した。もう陽おさまって白くくもっていてそれほど暑くはなかったけれど、リビングの温度計は三十二度だった。風呂を洗ってシャワーを浴びようとしたところで母が帰ってきた。きゅうりを十本ももらってきた。シャワーを譲って、冷蔵庫にもう一皿分けてあった肉の残りを食べた。母が出てくると、I.Yさんからもらったシャーベットを食べた。仏間にある盆の提灯をひとつ片づけた。部屋の隅に座りこんでいるとやっぱり汗が出た。それからシャワーを浴びて、ひげをそった。新しいカミソリだったからあごがちくちくした。部屋で歯みがきをして古井由吉「行隠れ」を読んだけれど、あとすこしで読みきらなかった。
 道の右側は林で、その縁は胸くらいまである石段の上に夏草が旺盛に茂って、見あげるような高さにまで伸びている。坂の手前でNさんが知らない人と話していた。知らない人が連れた明るい茶色の柴犬がこっちを見ていた。こんにちは、とあいさつすると、あ、どうも、と頭を下げてからFさんのところの、とつぶやいたから、通りざまにもう一度会釈した。坂に入ってすぐのガクアジサイは装飾花があせはじめていて、火であぶられたみたいに色が枯れたところがあった。まんなかの粒々もみずみずしさがなくなった気がした。坂をあがって横断歩道を渡って階段をのぼっておりた。べたつく汗を持てあましながらホームの先へ歩いた。駅前の木や西の林のほうからセミの声が渡ってきた。濁音がそれほど強くなくて、ヒスノイズみたいな音だった。イヤフォンをつけていつもと同じMiles Davis『Four & More』を聞いた。空はくもったガラス越しに見ているようなぼやけた青だった。
 四時間くらい働いた。
 電車の時間まですこしNext Stageをめくってから職場を出た。乗っているあいだも降りてからも音楽を聞いていた。駅前の坂はいかにも暗い。途中の家も電気がほとんどもれずに玄関灯もない。坂から出ると西の空はやっぱり暗く沈んでいて、山が闇そのもののように立っていた。南東のほうは街の明かりが宙に浮かびあがってうすくオレンジがかっていた。道の先から風が吹いてきて、涼しい夜だった。
 家に帰ると着替えているあいだに母が冷やし中華の麺をゆでてくれた。皿に入れた麺の上に卵ときゅうりとハムを盛った。餃子もあった。西きょうじをめくりながら食べていると父が帰宅した。会社で色付きピーマンを袋いっぱいにもらってきた。つるつるで鮮やかな黄色と赤だった。父が風呂に入ろうとしたけれど沸かすのを忘れていて、シャワーを浴びてすぐに出た。母は父の食事も用意してから洗面所で髪を染めはじめた。待つあいだに西きょうじを読み終わった。テレビでは在日韓国人が三世になって日本人と結婚する割合が高くなっている、みたいな話をしていた。母が洗面所からどいて風呂に入った。二十分で出てくれといわれていたからほとんど湯船に入らないですませたら十分だった。母は茶色い泡をつけた頭で仏間にいた。図書館で借りてきた本が置いてあって、山田詠美編集の短篇集があった。目次を見ると、中上健次「化粧」と庄野潤三「愛撫」が入っていた。あとはおぼえていない。
 部屋へおりてすこしだらだらした。ブラウザをひらいてホームページのニュースサイトで、柴崎友香芥川賞を取ったことを知った。直木賞はどうでもいいからおぼえていない。Art Farmer『Modern Art』を聞きながらミシェル・レリスを書きぬいた。筋肉をもっと苦しめなければだめだという義務感、あるいはもっと苦しめたいという嗜虐的な欲望がわきあがってきて、合間に腕立て伏せとスクワットをくりかえした。Radioheadをすべてパソコンに入れようと思って、兄の部屋から『Amnesiac』を持ってきた。『Hail To The Thief』も前に見かけた気がしたけれどなかった。ついでにEject Projectという知らないやつと、Belle and Sebastianと、『英語長文問題精講』も持ってきた。Radioheadが二〇〇一年にドイツでやったライブ盤をヘッドフォンで聞きながらプルーストを書きぬいた。日付が変わる前に力尽きた。歯をみがきながら『英語長文問題精講』を一題読んで、日記を下書きしてから眠った。