一〇時に仕掛けた目覚ましで覚めた時、夜も更けて新聞屋のバイクが町内を走りだした頃に眠ったわりには、驚くほどに身体が軽く、意識の混濁もなかった。布団をめくって抜けだし、アラームを止めると、寝床に戻りはしたものの布団は被らず、意識もはっきりしていたので二度寝に落ちることはなかった。窓から落ちる白い陽が、左腕の隅に触れている。しばらく仰向けで過ごしてから、洗面所に立ち、顔を洗って用を足すと瞑想をするべく枕に戻った。一〇時一一分から二〇分までの九分を座って、それから上階に行くと、台所には特段おかずがなかったが、腹がそんなに食欲旺盛でなく、ハムエッグを食って油を取り入れる気がしなかったので、納豆を取りだして酢と大根おろしを混ぜた。それで米と、汁は前夜のスープ、おかずには質素にゆで卵一つを卓に並べて、他人のブログを読みながら食べたそのあとは、新聞を少し覗いた。記事を読んでいると時間が経って一一時過ぎ、食器を片付けて、蕎麦茶を用意して室に帰った。インターネットを少々回ってから、Yes『Yessongs』を流して前日の新聞を机に広げ、ベーシック・インカムの是非についてのスイスの国民投票の記事など、国際面のものばかりいくつか写した。件の投票は、七七パーセントほどが反対という結果に終わったらしい。それからこの日の新聞をきちんと読むのは後ほどとして、William Egginton, "Letter From Austria: Is Europe’s ‘Tolerant Society’ Backfiring?" の写文をして、それで正午過ぎ、歯磨きを済ませながら『ローベルト・ヴァルザー作品集5』から「フェリクス場面集」を読んだ。ベッドに寝転がったその頃には、朝のような陽射しはなく、それでも明るい空気ではあるが雲が湧いて空を白く濁らせている。Yesの音楽が流れるなかで一時前まで読み、腕立て伏せに腹筋をしてから風呂を洗いに行った。ドライヤーで髪を少々整えてから下りると、ベスト姿に装いを替えて、荷物をまとめたのちに瞑想をした。一時二九分から四〇分まで瞑目してじっと座り、腹を膨らませたりへこませたりしながら、英語への触れ方を考えた。要するに、新聞の電子版記事ではなくて、もう洋書を読みはじめたほうがいいのではないかと思ったのだ。New York TimesのThe Stoneだってそれなりにためになるものではあるが、やはりもっとボリュームのある本を、そのなかでも小説を読みたいものだ。ただ、現状のまま一日三〇分を英語に割り当てるのだとすると、洋書一冊を読み終わるまでにはあまりに時間が掛かってしまうのではないかとも思われたのだが、それでもとりあえずは明日からそちらのほうに転換してみるかと、実際にそうするかわからないが一応考えるだけは考えて、洋書を使った場合の語彙の勉強の仕方なども思案して、目を開けると上階に行った。そうして靴下を履き、アイロン掛けを済ませると、おにぎりを一つ作ることにした。釜の横のスペースにラップを敷き、米を乗せて、母親に勧められて例のだし塩というのをちょっと振って、手に持った。米の熱に手のひらに痛みを感じながら、いびつな形に整形して、プラスチックの小箱に入れて、そうして家を発った。温みの残っている空気である。街道まで行ってKing Crimson『Ladies of the Road』を聞きはじめ、結婚式のギフトカタログの注文用紙をポストに投函すると、裏道に入った。頭の周りを囲む髪のなかに、汗の気が籠るようで、また伸びた前髪が眉のあたりや額に触れるのも煩わしく、そろそろ切り時である。空はやはり白いが、陽射しはそれなりにあって雲をすり抜け、空気に纏わりつくような鈍い暑さを混ぜこみ、行く手にも輪郭の少し朧な影が浮いた。駅前に出ると職場に入って、挨拶して奥の一席に就いたのが、二時半頃である。コンピューターを用意して早速書きはじめ、BGMにはCecil Taylor『Live At The Cafe Montmartre』を選んだ。それで前日の記事を進めて、出かけた時間が短かったし書くことも特段なかろう、しかしそのわりに進みがのろい、と時計を見やり見やり、労働までの時間がなくなっていくのに萎えるようになりながら打って、一時間が経って三時半前に仕上げたところで数えてみるとしかし、意外にも二〇〇〇字書いていた。そうしてこの日の分に入って、四時には仕舞えた。便所に立って放尿してから、作ってきた味の薄いおにぎりを頬張り咀嚼して、食後、ガムを噛みながら書き抜きに入った。『ローベルト・ヴァルザー作品集4』である。指がうまく動かずにたびたび目標のキーを外しながら打鍵しているあいだ、眠気があって、打っている言葉もあまり頭に入ってこないようだった。BGMはEarth, Wind & Fire『Spirit』に途中で移して、五時を過ぎて同書の書き抜きは完了した。それからはしばらく、『ローベルト・ヴァルザー作品集5』を読んで、そうして労働した。一時限のみの非常に容易な仕事を済ませて、退勤し、夜道を行った。背後の空には雲が残っていたが、行く手の西空は半ば晴れて、まだこびりついた雲の姿も沈んで目につかず、その向こうから鮮やかな青みが洩れて星も見えた。街道に出ると、自販機でジンジャーエールのペットボトルを買い、片手に持って残りの帰路を辿った。帰ると手を洗って自室に帰り、服を脱いでから瞑想をした。八時二四分から三五分までである。そうして食事をしに上がり、天ぷらと素麺をそれぞれ卓に用意した。夕刊をちょっと眺めつつ食べていると、父親がもう帰ってくるからと母親は風呂に行った。食後、母親の分もまとめて洗い物をしてから、蕎麦茶を持って部屋に下り、インターネットを回ってお笑い系の動画を見て笑ったりなどした。そうして怠けていると時間が過ぎて一一時前、風呂に行って、湯を浴びてくると室で、『ローベルト・ヴァルザー作品集5』を読みはじめた。この日で最後まで読了するつもりで意気込んでいたのだが、ベッド上に転がって頭を枕に乗せながら読んでいるうちに、欠伸が湧いた。とはいえ意識が下に引きずられる気配がないので、行けるところまで行こうとミクログラム紙片に突入したところが、明かりを灯したままいつの間にか眠っていた。何度か覚めたようである。最後に意識が戻った頃には、曖昧な記憶によると三時だったようで、しまったと思いつつも、身体が重くて仕方がなかったので、歯磨きをしに立つ気力もなく瞑想も諦めて、電灯の紐を引いて倒れた。