2016/7/31, Sun.

 意識がはっきりしたのは、一一時だった。それ以前にも九時頃から、一、二度覚めてはいたようである。寝床に伏せたままごろごろとし続けて正午近くになった。晴れて暑い日である。起きて便所に行ってきてから瞑想、一一時五五分から一二時四分まで行って、居間に上がっていった。ちょうど母親が餃子を焼いているところだったので、焼きあがるのをちょっと待ってから皿に盛り、それをおかずに米を食った。椀を一度空にしても母親が、牛そぼろは食べないのかと促すので米をもう一杯おかわりし、炭水化物を旺盛に摂取した。向かい合った母親曰く、父親は祖父の姉妹のその息子、先日にどうも良くない死に方をしたらしいが、その親戚の四十九日の法要で出かけているらしい。食後には、やはり胃がまだ傷ついているのか、腹の張る感じがあった。腹のなかから空気が食道を通って上がってきて、喉のあたりまでやって来てややおくびめいて音を鳴らすと、小さな衝撃が身体に軋むのだ。食器を片付けると下階へ行き、ギターを弄った。それで一時過ぎ、兄の部屋を出て自室に戻ると歌を歌った。その後、W・G・ゼーバルト/鈴木仁子訳『目眩まし』を読んだが、ベッドに就いて、寝転がってはいないがヘッドボードにもたれて姿勢をやや平たくしていると、暑気と混ざった眠気が湧く。まどろみと格闘しながら読書を続けて、二時四〇分である。都知事選の投票をしに行くついでに、外に留まって書き物をしなくてはならないと考えていた。友人の結婚式を訪れた前日は何しろ書くことがたくさんあろうし、この一日のみで終わるかどうかも心許ない。しかし図書館は、夏休みなのでおそらく子どもたちが集って席が空いていないだろう。そうするとハンバーガーショップくらいしか行く場所がないのだが、胃の調子が悪いところにまた炭酸飲料なり甘いジュースなりを飲んで胃酸の分泌を促進させるのに気が進まなかった。それではどうしたものかと考えているうちに、発想が逆転して、投票をあとにするのが良いのではないかと思いついた。八時まで時間はあるのだから、それまでは自宅でできるだけ書き物をすれば良い、ちょうど両親は出掛けている。父親は一度帰ってきた声を聞いたのだが、その後買い物に出かける母親と一緒に行ったのだろうか、二人とも気配がなかったのだ。それでコンピューターを持って居間に上がり、テーブルに就いて、三時前から書き物を始めた。前日の記事の冒頭は、当日に電車内や新宿駅の構内で手帳にメモしたことをもとに綴っていく。そうしていると三時半に両親が帰ってきて、母親が明るげな声音で何とか言いながら入ってくるのに苛立ちを覚えて、さっさと自室に退散した。打鍵を続けながらしかし、途中でインターネット検索を四〇分か五〇分かそのくらい挟んでしまい、書き物に復帰したのち午後六時で一度中断した。この前にも一度あったのだが、お天気雨がちょうど降りだしたところだった。外は明るく、空には雲が広がってはいるものの、端のほうに青の層も覗いている。空気が何となく黄の色素を混ぜこまれているようで、あまり見た覚えのなく妙な、しかし穏やかな淡色を帯びていた。雨はきまぐれに強まって葉を叩く音を響かせたかと思うと、またすぐに弱まる。部屋を出て上へ行くと、夕立が強まって、外はあっという間に白くなり、山の姿はかき消え、窓の表面には次々と水滴が滑った。一旦部屋に戻って、六時半前まで文章を書き足した。窓外からはヒグラシの音がしきりに響いて、網戸を貫いて部屋のなかに入りこんでくるかのようである。ふたたび上階に行き、制汗剤ペーパーで汗を拭くと、軽装に着替えて投票に出かけた。家の前の道を進んでいると、鶯の声がまだ落ちる。西空に浮かんだ雲の腹には茜色がはらまれている。坂を上っていき、サルスベリの紅色が散った道を通り、さらに進んで自治会館に着く前にふたたび夕立が走りはじめた。ピンク色のシャツに染みを作ってなかに入り、靴を脱いで上がると投票、立会人は一人しかいなくなっていた。玄関に戻ると、雨が猛威を振るっている。戸口外の段の上で、弱くなるのをしばらく待った。空は灰色と白に閉ざされて、それを背景にするとあれほど激しく降っている雨粒も溶けこんで視認できない。目の前の地面は無数に打たれて乱れ、波打ち、白い線がひっきりなしに跳ねて毛羽立っている。正面の家の囲い側面にある排水口からは、水が絶え間なくどくどくと流れだして道路を覆う水流に混ざっていく。雨脚がちょっと軽くなった隙に出たが、またすぐに強まるだろうとは思っていた。案の定、坂を下りて横断歩道に掛かったところで早くも捕まって、濡れた髪を搔きあげながら信号が変わるのを待った。車のライトが路面に映って、祭りの提灯のように明るくなっていた。降られながらさらに坂を下っていくと、側頭部や耳の周りを粒が撫でるのがくすぐったい。額や目の周り、鼻にも垂れてくるものを拭って進み、家の近くになると雨がやんできた。なかに入ると服を脱ぎ、先に入浴することにした。下着一枚になって体重計に乗り、時計に目をやると、七時ちょうどである。体重は忘れてしまったが、網戸の掛かった南窓から覗く外の空気が、青緑色に浸かっているのに惹かれたことは覚えている。この時期特有のものなのだろうか、青のみならず、そこらの木々から色が洩れだしたように、緑の色が僅かに空気に混ざっているように見えてならないのだ。東山魁夷に確か、作名は忘れたが、青闇に包まれた山中を描いた作品があったはず、あの絵がちょうどこんな色ではなかったかと思いだしながら、風呂場に行った。浸かるのがあまりに暑そうなので浴槽に入らず、外で湯を浴び、身体を先にたわしで擦ってから、頭を洗った。再度身体を擦りつつ水も浴びたのちに出て、洗面所で髪を乾かしているとひっきりなしに汗が湧いて肌が乾く暇がなく、甚だしい暑さを如実に示している。居間の扇風機は二つの態勢、室の両側から互いに向き合って風を送っていた。夕食は麻婆豆腐に卵のスープ、インゲンの和え物やキャベツである。ドレッシングは胃に悪かろうと使わず、塩をちょっと振っただけで胃の助けにとキャベツを先に食い、それから麻婆豆腐を掛けた米を咀嚼した。夕食中に、テレビの上部に小池百合子当選の報が小さく知らされて、母親は、あ、やっぱり小池さん、私も小池さんに投票したんだと言った。食器を洗って室に戻ると、胃酸を中和するためにガムを噛み、インターネットを回って歌を歌った。九時半過ぎからふたたび書き物である。最中、蕎麦茶を飲もうかと湯呑みと急須を持って上がった。台所で急須をひらいて滓をあけると、数日忘れて放置していたためにこの暑さでなかに黴が湧いていて、黄緑じみた色のチョークのような点が付着している。戸棚から漂白剤を取って吹き付けておき、戻って書き物を進めた。BGMはJohn Beasley『Letter To Herbie』に、John Butler Trio『Sunrise Over Sea』である。一一時一七分まで続けて、中断することにした。一〇〇〇〇字を書いたのだが、記せたのはまだ結婚式が終わったところまで、時間にして午後二時あたりまでだった。実に面倒くさいが、まあ気楽にやろうと残りは翌日に回すことにして、この日の事柄をメモ書きして、一一時四四分を迎えた。それ以降のことはメモを記していないので覚えていないのだが、寝床でゼーバルト『目眩まし』を読む以外のことは大してしなかったはずである。その後、一時一分から一一分まで瞑想をして、眠りに就いた。