六時の目覚ましで覚めたが、布団に戻ると意識を失って、起床は六時四五分になった。それでも三時間三〇分ほどの短眠である。晴れの日で、アサガオの葉蔓の隙間を空の青さが埋めて、雲はないようだった。洗面所で顔を洗ってから上がって行き、ハムとキャベツを炒めた料理やゆで卵や、前夜のカボチャの煮物をテーブルに並べた。それから新聞を取りに表に出て行くと、粒子の集合めいた朝陽のなかで細かな虫がちらちらと飛び回って発光している。新聞を持って卓に戻ると、読みながら食事を済ませた。室へ帰ると七時半かそこらで、出るまでにもうさしたる時間もないので、ちょっとインターネットを覗いてから着替えをした。その他の身支度も済ませて出ると、その頃には曇り気味になっていた。自転車を駆り出して走りながら見上げると、空には雲が薄く敷かれており、太陽はうっすらと光っているが膜を突き破って輝きを降らせる勢いがなく、夏の空気ではない。汗もほとんどかかずに進みながら、晩夏だろうかと思った。そこここのサルスベリも紅色を地に散らばらせて嵩を少なくしていた。職場に着いて労働をこなし、一二時半頃には退勤した。帰路は雲が集まって密度を増し積み上がるかわりに空に余裕を持たせて、強くなった陽射しが注いでいた。睡眠が少ないためだろう、やたらと疲労感があって力が出ないのでのろのろと走っているあいだ、曇ったかと思えばまたすぐに晴れて、太腿がじりじりと熱された。表に出ると、信号に車が一台停まっているのみで、昼下がりの道は蟬の声も遠く静まっており、その静寂と、アスファルトの上を伸びていく薄砂色のタイヤの痕跡が、空気の乾いた感じを一層強めていた。帰宅すると、母親は仕事で出かけており、自分一人である。室に下りて下着一枚になると、疲れて仕方がなかったので眠った。寒気を感じながら断続的に二時前まで休み、それから食事、レトルトのキーマカレーと生野菜のサラダを用意して食った。風呂を洗い、ベランダの洗濯物を取りこんでから戻ってだらけたあと、三時四〇分から山川偉也『哲学者ディオゲネス』を読みはじめたのだが、多少眠ったにもかかわらず疲れが取れておらず、脚の先まで細胞の一つ一つが重さを増したかのように身体が凝って、意識が混濁して仕方がなかった。それでも、五時までものを読んでいる。ちょっとしてから上へ行くとちょうど母親が帰ってきたところだった。タオルを畳んでから、母親が買ってきた餃子を焼いた。焦げ目を付けて焼きあげ、一旦ソファに就くと、外は暮れ方、雲がちな空に薄水色と燃え残りのように棚引く茜色が交錯して、水彩画めいた雰囲気だった。アイロン掛けをしてから自室に帰ると、六時半前だった。読書をしようとふたたびベッドに転がって窓を見上げると、アサガオの葉が陰を帯びている。蕾は紐で結わえられた傘のようにすべて細く閉じており、もうよほど茂っている葉の合間からひどく淡い青が覗いているが、暗んだ緑に囲まれて陰鬱なようだった。六時二五分から八時三分まで読書をし、その後コンピューターを弄ってから夕食に行った。餃子をおかずにして米を貪ると、九時半から風呂へ行き、戻ると書き物を始めた。『Warne Marsh』を聞きながら打鍵して(このアルバムは売却するかどうか迷われた)、次にTiziana Ghiglioni『Somebody Special』に移して(この作品は長らく聞いていなかったが、Soul Noteから出ておりSteve Lacyが参加しているだけあって、充実作だと思われた)書き続けていると、脚に何らかの虫が触れた気配があって、びっくりして見ると机の下、水平に巡る支柱を支えにしてトレイを置き、その上に本を諸々乱雑に積んでいるのだが、カバーが外されて埃まみれの『百年の孤独』の下に黒いものが逃げこむのが見えた。ゴキブリと言えば、小学校四年生か五年生かの頃に居間にいる時、脚の上にたかったものが走った感触がよほど嫌だったのだろう、いまでも覚えている。カブトムシにしても蟬にしても、虫類は幼い頃には躊躇なく触って一時期は飼ったりもしていたはずなのに、中学に上がる頃からだろうかめっきり苦手になってそのまま育ってきたが、ここ二、三年で多少図太くなったらしく、今更ゴキブリに触れられたからといって大げさに騒ぎ立てるようなこともない。とはいえ裸の肌にたかられるのはやはり嫌ではあるので、ハーフパンツを履き、武器を取りに上に行った。洗面所から殺虫剤を取ってきて、『百年の孤独』の周辺に吹き付けると敵が出てきたが、素早くスピーカーの裏側、手の出せない部屋の端のほうに逃げこんでしまった。そのあいだにさらに物理的な手段を取ろうとスリッパを履いてきて、シャツも着てから、本が三列に積まれた上からスピーカー裏を覗きこんでいると、ぶーんと羽音がするとともに右足首のあたりに触れる感触があった。予想しない方面からの奇襲にびっくりして見下ろすが、既に忍んでいて姿が見当たらない。しばらく袋や机を軽く蹴って威嚇してみたが出てこない。戸口のほうに行くと廊下からかすかな擦過音がするので、明かりを点けると板張りの床の真ん中に既に多少弱ってよたよたしたものが動いていた。再度スプレーを吹き付けたあとスリッパで踏み付け、動けなくした上にさらに吹き付けて追い打ちを掛けた。ものが溢れてごたごたとしているわりに食う物がないからだろう、自室にゴキブリが出たのは久しぶりのことで、ここ数年はなかったのではないか――忘れているだけとも思えるが。久方ぶりの戦いに勝利すると敗残者を放置しておき、書き物に戻った。それで零時に仕上げると、トイレットペーパーを持ってきて敗者の死骸を包み、便所に流したあとから小便を放つという冒涜の振る舞いに出たのち、歯ブラシをくわえて部屋に帰った。動画を見ながら口内を掃除したあとは、読書である。一時半まで読んだあと、一〇分間瞑想をして、眠りに就いた。