室内は薄暗く、外は曇りらしい。カーテンをひらいて、腰掛けたベッドの縁から振り向くと、毛布のような青い雲がなだらかに、空を寝床のようにして覆って窒息させんばかりだが、山際に少しだけ、空気を吸えるような細い地帯が残っており、そこのみ朝の暖色を仄かにはらんでいた。
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持ってくるのを忘れたマフラーを取りに戻るのが面倒なので、なしでもそこまで寒くはあるまいと玄関を出たが、瞬間、触れる空気の冷たさが予想以上で、これではやはりつけなくては駄目だと、靴を脱いで室に帰った。赤銅色の布を首周りに固めて、改めて外に出ると、服の周りに迫ってくる冷気の感触が、固く、翌日降るともっぱら噂の雪が思われる。道端の楓は、赤がだいぶ多くなってきたが、緑も周縁から少しなかに入れば残っており、淡黄色をあいだに経由して内から外へと、滑らかな色の推移が見られるのが、品良く優美だった。坂を越えて街道前で見上げれば、空は雲が覆っているというよりは、表面の色を剝がされて、内の空洞を曝けているかのように白く、周囲の地上にも、色味を鮮やかという形容で呼べるものは見当たらない。時刻はまだ三時半だが、街道の先で車が、詰まって列になりながら、後部の赤色灯を点けては消して連ねているその明かりの輪郭が、やや厚くなって際立つ灰色の空気である。向かってくる車のなかには、正面のほうを灯しているのもあり、燠火のように控えめに留めているもののみならず、早くも皓々と、二つ目から光を放っているのも見られた。息を吐けば、目の前に一瞬丸く渦巻いて直後には、風に煽られて、煙というよりはそのもととなる炎のようなうねりを見せて、散って行った。