2017/1/12, Thu.

 居間に上がると、窓に寄る。数日前には朝陽のなかで汚れも曇りもなく透明に見えた窓ガラスに、塵の付着なのか、一面細かな、整然としたような水玉模様が張り巡らされているのが顔を近づけると視認される。その眼前の窓と、外の、密度の高い青さの瓦屋根とのあいだに繰り返し、焦点を行き来させる。

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 出発。坂道に入ると道の上は青蔭が乱雑に交錯しているが、ガードレールを拡大して象った太い帯がない。左隅に寄ったのと、道の真中を堂々と行くのと、過去にそれぞれを見たのは朝と、正午頃だったかと思い出し、後ろを向くと、ちょっと曲がった坂の入口あたりに生えた木の影が二、三本、実物よりも細身になってひょろ長く、頼りなげに伸びている。その梢の先の真正面に太陽が浮かんでおり、三時だともうこれほど西のほうに寄っているのかと、意外の感を受ける。

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 街道を越えて裏へ。ある家の庭で老人が輪投げをしている。歩むにつれて、行く手の家々の高みにある窓に、飴のようなオレンジ色が映りこみ、過ぎ去って行く。線路の向こうの森は、老人の皮膚のように水気なく褪せた緑やらそれの黄ばんだような色やら、褐色めいた鈍色やら複雑に差しこまれて組み合わさった上に、陽を受けて和んだような色合いになっている。進むうちに線路の向こう側に人家がなくなって、森の縁が一段こちら側に張り出てくる。最前の木々の、緑と褐色の混合が、風を受けて左右にゆたりと揺れている。遠くに浮かんでいる雲はひとまとまりのうちに色味の差異はあるが、貼りつけられたシールのような立体感のなさである。空はほとんど一面青く、正面に視線を放るとそれが当たる拠り所がなく、遥か先に立った壁のようだが、視線を上げるにつれてその平面が起伏も見せずにこちらの頭上までひと繋がりに通ってくるのが不思議なようでもあった。果てなく、視線の通り抜けることができない、深いが明るい青さである。

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 帰路は寒いには寒いが、このくらいの寒さには慣れたもので、芯まで通ってもこない。月は高く、空は前日よりも青が深く暗みが強いように見える。裏に入って坂を下りかけたあたりで見上げると、高みに、まさしく宙に掛かった電灯のように丸く満月が嵌めこまれており、距離のためか白い照りのためか、表面が滑らかに、起伏や模様が殺されている。夜空は市街の屋根屋根を越えて届く限りの果てまで藍に浸って、その最遠の際では、街明かりが滲み洩れて浮遊するようで、仄かに赤さが漂って青味に接しているのが、心憎いようである。振り向き振り向きそれを見やりながら、木々のあいだに入って、坂を抜けた。