2017/2/6, Mon.

 朝には陽射しが寝床に入って来ていたが、家を発った一一時台には薄暗いほどの曇りになっており、玄関を抜けた時から雨の気配も嗅ぎ取られ、懸念された――実際、一〇分ほどしてから、往路を行っているあいだに散るものが始まったのだが、ひどく微かで、服の上に染みも残さない程度に留まった。街道に出る前に、ガードレールの向こうの斜面に生えている紅梅はどうかと、ちょっと向かい合ってみると、途端に突風がうねって、白い薄片がいくつも正面から流れてくる。粉雪めいたそれは当然、梅の花の欠片で、木に寄り集まっているとピンク色が凝縮されて明らかだが、一枚ごとに離れて空中を流れると、紅の色合いは思いのほかに仄かで、目を凝らさないと白梅のそれと見紛うようだった。風の強い日で、老人ホームの脇に並んだ旗がどれもばたばたと、激しく音を立てて身じろぎするほどで、加えて鉛色の空気ではあるが、気温は高めで、風が肌に当たって来ても寒くも何ともない。

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 裏通りを行っている途中の道端で、雀が何匹か溜まっているのに出くわした。狭く、何もない地面を枯芝のような草が中途半端に覆っているだけの、敷地から除け者にされたようなちょっとした空き地で、塀に接しているそこにはなぜだか雀がよく集まっているのを見かける。随分と近くにいるものだから、眺めたいと思って足を止めたところが、すると一秒くらいしか置かないうちに、やはり人間の巨体が停まったことで警戒があるのだろう、小鳥はみな一斉に、塀の上に飛び移ってしまい、距離を取りながらこちらのことを見据えるような雰囲気だった。そうされてはふたたび足を進めるよりほかはない。

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 書店を出ると、陽射しが地に激しく反射して、純白に固まっているのが瞳を急襲した。こごっていた雲が晴れて、背の高い建物らの先に青空が見えはじめていた。

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 六時過ぎだったかと思う。代々木から新宿に向かって歩いて行き、踏切の脇から高架通路へと階段を上って行くと、淡桃色の光が視界に現れた。通路の左右に並んでいる木々に一面、電飾が取り付けられているのだ。裸になった木は幹から枝先まで、隙間もほとんどなくその人工花に覆われて、木の形を少々厚くしながら象られており、そのさまは突き立った珊瑚のようにも映った。葉のついているものも同様に装飾されており、こちらは風に吹かれると応じて枝葉が揺れるのに、両生類の卵のような丸々とした光も同調して動き、その時だけ集合体として固化していた電飾群から一列の連なりが分化して、曲線としての形を露わに撓ませてみせるのが心憎いようだった。新宿駅の目前までその回廊は続いて、薄闇を華やかに明るませており、あたりには携帯電話を構えている人も見られ、歩いているあいだ、本当に綺麗、とその輝きを賞賛する女性の声も背後に聞かれた。