2017/4/25, Tue.

 往路、雲が淡く混ざっていくらか鈍く、長閑なようになった晴れ空である。裏道に入りながら目が行った西の、丘の稜線に接したまさしく際の空間に、落ち陽がすっぽりと、穴に嵌まったように円く光を満たしている。昼間には風の荒れた日で、居間にいる時に窓の外で甲高い唸りの響く時間もあって、午後五時になっても高い方ではそこそこ吹いているらしく、前を行く高校生らの話し声の裏で、丘の木々の鳴りが聞こえていた。物々の影が薄明るんだ塀に掛かって青みを添え、足もとからは、こちらのものも前の学生四人らのものも一様に、淡い影が前方に伸びて、ほんの少しだけ横に傾ぐ。合間に挟まれた坂を渡るとすぐ見えてくる一軒の、それは作業場か何かの風情の建物なのだが、薄朱色の花をつけた野草の繁殖した空き地に接する金属製の柵に、鴉が一羽止まっていた――つい先日も、飛んできた一匹ががしゃりと鳴らしながら降り立って我が物顔にあたりを見回し鳴くのを見た、その同じ柵である。この日の鴉も鳴きを上げて、すると林の方からもう一羽やってきて返すのを、どうも鳴き交わしているな、と見ながら過ぎた。寺の枝垂れ桜は緑を塗られている――そこだけ温度のちょっと下がって涼しいような、まだ未熟な梅の実を連想させる青緑色だった。

               *

 帰路も雲が僅かに残っているようで、青さのなく墨色に寄って、星の光も霞みがちな夜空だった。背後から街灯に照らされて道に浮かぶこちらの影の形が、やけにくっきりと見える。裏通りの左右を囲む民家のなかから人の気配らしきものも伝わってこない静けさのなかに、地を踏むに応じてこちらの靴の、ゴムが伸び縮みするらしい擦過音のみが立つ時間があり、それに耳を寄せながら行って空き地に掛かって空間がひらくと、表のどこの建物でやっているのか、五月の祭りに備えた囃子の練習の音が聞こえて来て、しかしそれもすぐに車の通る響きを被せられて届かなくなった。ふたたび目を落とした影は歩みに応じてこちらの横を追い抜かして行き、光の青さを僅かに滲ませた輪郭線を固めて色を濃くしては、前方に柔らかく伸びながら薄らいで行き、消えるとまた後ろに復活する――その繰り返しを眺めているといつも、梶井基次郎が、どの篇でのことだったかも忘れてしまったが、夜道を行くあいだに街灯に映し出される影の推移をやはり書き付けていたなと思い出されるのだった。