2017/4/29, Sat.

 六時、窓辺のベッドに乗って、姿勢を緩くして身体を寛がせながら『梶井基次郎全集 第一巻』を読んでいると、カーテンがいくらか膨らんで、夕刻の涼しさが流れこんで来る。空は白いが、明るめの曇りで、電灯を点けずともまだ言葉を読み取るのに支障がない。文字に目を落としているうちに、外から草の音が立って、間断を挟みながら時折りがさがさというその調子が、人というよりは動物のものらしく思えて、猫だろうか鳥だろうかと確認はせずにただちらちらと見やっていたところ、何度目かで窓正面の棕櫚の木に、鴉が一羽止まっているのに、これかと気づいた。冬枯れからまだ復活しきっておらず、幹の横に薄色に乾燥した葉の残骸をいくらか纏っているあたりに、鴉も掴まるようにして、虫がいるのかしばらく顔を木に近づけては離していたが、じきに飛んで行った。それから姿勢を変えて、本を窓の傍に持って行った拍子に、それまではまっさらに白かった頁が淡く橙の風味を帯びて色づいたのに驚かされて、何度か窓際と室内に本を往復させて色合いの変化を眺めた。外は一見して均質な曇天で、夕陽の感触などどこにも見当たらないが、紙という媒体を得て空中に確かに含まれているらしい光の色素が露わに浮かびあがった形である。頁と頁が最接近した谷底の部分が、殊更に色を溜めて、影を作っていた。