2017/5/1, Mon.

 外出する頃には、雨降りが始まっていた。傘をひらいて道に出ると、熱されたアスファルトが雨に打たれた時の匂いが、仄かに立ち昇って来る。雨音はまだ乏しいが、坂を上って街道へと向かうあいだ、小さい幅で強まり弱まりを繰り返しているその不安定さに、予報で伝えられたこのあとの雷雨の気配が窺われないでもなかった――実際にはその後図書館の席に座った頃には、雨はもう止んでおり、すっきりと淡い青空から陽が射し入って顔を火照らせる具合だったのだが、この午後三時前の往路では最後まで降り続けた。街道を歩きはじめた頃にはいくらか強まっていて、粒と粒のあいだはひらいているようで景色が白く霞むことはないが、一つ一つの粒子はそれなりの大きさを持っているらしく、音が固く、締まっている。裏に入っても引き続き固い降りが続いて、靴の先から湿り気がかすかに染みこんで来るような感じがし、傘の縁から白玉が落ちる――それには二種類のリズムがあって、一方では布地の縁に溜まって白い曇天を映しこみながら震えていた玉が重みに耐えきれず落下するその合間に、他方では布の上で周囲の粒を吸収して大きくなったものが一気に斜面を駆け下りて、まるで思い切り良く自殺するかのように飛び落ちるのだ。途中、濃い黄土色めいた茶髪の青年に抜かされた。半袖半ズボンの、コンビニにでも行くような軽い格好で、腰のあたりに落とした左手につまんだ煙草の匂いが、こちらの鼻にも通った。その後ろを行っているうちに、道の先から下校して来るまだ身体の小さな小学生らが現れはじめて、小児のなかの一人が、父ちゃん、と叫んで、どうしてこんなところにいるのと続けたのに、既に煙草は捨てたらしい先の青年が、迎えに来たんだと答えているのを見て、それまで青年を人の親だとは思っていないところに思いがけず新たな意味が付与されて一気に印象が転換された意外性の寄与もあろう、他人の生活や人生の一片がいくらかの具体的な手触りを伴って垣間見えたような気がした。