2017/6/1, Thu.

 ベッドに腰掛けて新聞を読んでいると、背後の窓先でぱちぱちという鳴りが始まって、カーテンをめくれば、雨が落ちてきている。ベランダの洗濯物を取りこみに行けば、空は雲間に水色が細く覗いて、近間の瓦屋根も明るみを淡く跳ね返すさなかの降り出しだが、粒と粒のあいだが広いわりに速く重く落ちるようなのが、まだ正午過ぎだが夕立めいた気配を醸した。室に帰ってふたたび腰を掛けた後ろで、粒の結構大きいようで葉や窓に当たる音がやけに固く、募りだすかと背に窺っているとじきに繁くなって外が薄白く包まれたが、それもすぐに過ぎて、あとには陽の色がほの見えた。
 夕方にはまた明るくはあっても曇りに閉じた空になり、雨が過ぎたおかげかひどく蒸すわけでもないが、風もない。街道沿いを行くあいだにただ一度、車に連れてこられたように、西から追い風が立って背に当たったが、その後裏路地では吹くものも吹かず、微細な空気の揺らぎがあるのみで、そんなものでもあればやはり肌は敏感に拾っていくらか安らぎ、なくなれば額に温みが留まる。寺の付近まで来ると突如鈍い唸りが空に渡って、飛行機が丘の向こうからやって来るかと思ったが続かずに拡散したのは、どうも雷が遠くで落ちたものらしい。感応するように、鴉が一匹、林のなかからざらついた声で繰り返し鳴き立てていた。狭い路地に燕が活発で、人に当たりやしないかと思うほどに低く、路面近くを通って軒下へ電線へと行き交ってやまない。張り渡されたものの上に数匹並んで止まっているさまと言い、体を伸ばして静止しながら宙を滑らかに流れる姿と言い、鳥というよりは水中の魚のように映る瞬間がある。
 上弦月の夜のはずだが、月の姿は雲に乱されて、オレンジ色の暈が朧げに円く広がっているのみで、歩くうちにそれも色を失って丘の傍で消え入りそうになっていた。それでも空は明るく、稜線の間近に雲がひときわ灰色にわだかまっているその層の差が見て取れる。街道を車の走っていく響きのなかに時鳥の高い声を聞き取って、また空耳だろうか、それにしても自動車に時鳥とは、と取り合わせのちぐはぐさをおかしんでいると、静かになってからも続くものがあった。深夜二時三時によく鳴いていたのが、気温の上がったせいかここのところ早く聞くようになったと思えば、この日は明るい夕刻の出掛けにも、近所の家々の屋根を越えて渡ってくるのを聞いたのだった。
 外にいればそうでもなかったが、屋内に入るとやはり停滞した空気が蒸し暑く、洗面所で手を洗うのに灯した天井の明かりさえもが首筋に温もる。気温の下端がだいぶ持ち上がったようで、深夜に至っても涼しさが募らず、窓を開けたままに肌を晒していても支障のなさそうな長閑な夜気だった。