2017/7/1, Sat.

 雨の予想の、高さは聞いていた。昼を過ぎて出れば実際、散るものがあるが、降り出しというよりはむしろ降り終えのかそけさに、傘を持つ気にはならず、盛れば盛ったでどうでも、と払った。街道まで来ると落ちるものの間がやや狭くなり、顔に掛かってくる水に目を細くさせられたが、それもすぐに衰えて、じきに消えて行った。水気が宙に散っても涼しさは立たず、肌がべたついてやまない曇天である。
 立川で友人との会合、喫茶店で話して暮れ方、書店を訪れさらにラーメンを食ったのち、またもや喫茶店に入って、思いのほか長く、閉店時間まで話し込むこととなった。最寄りに着いたのは日付替わりも済んだ頃で、ぬばたまの、とはこのことか、漆黒に籠められた空のもと、足下[そっか]のホームの表面に含まれた何かの粒が、星の代理めいて、街灯の光にきらきらと応じていた。木の間の下り坂に入ると煙草のような香りが触れたのは、誰が吸っているでもなく、植物が自ずと吐く臭気なのだろう。道のあちこちから、まだ水気が散りきってもいない。風どころか空気の動きがまるでなく、周囲に耳を張っていても葉の擦れる音が一つも拾えない静寂のうちに、沢のせせらぎのみが、やがて小さく抜けてきた。
 玄関に入る間際、顔に触れるものの一滴を、その時は気にもしていなかったが、風呂に行ってまもなく、日中には結局降らなかった雨がここで始まった。湯に浸かって聞いているうちに、音は窓の向こうに浸潤し、降りは繁くなって、部屋に帰ってからも雨気が身に沁みるような具合に寄ってくる。響きからするにまっすぐ降っているようで、音も結構厚くなったが、そのわりに吹くものはないのだろう、風が室に入ってくることはなかった。