2017/7/12, Wed.

 振り向いた窓が、いつの間にか仄暗くなっていた。流していた音楽の裏に風の音を聞いたように思ったのは、あれはどうやら遠い雷の響きだったらしい。時刻は二時、洗濯物を取りこみに行くとベランダには既に散るものがあって、吊るされたものを室に収めてまもなく、夕立めいて駆け出した。地上は薄暗いが南の空には青さが見えていて、明るみが半端なように混ざって不調和ななかを雨はしばらく盛り、止まったあとには遠くから、気早な蜩の声が一つだけ、細くかすかに伝わった。
 夕刻、風が林を駆け回り、大きな鳴りを起こす。坂に入っても頻りに周囲が立ち騒ぎ、目を落としていると車が来たかと錯覚するほど、そのなかを抜けて出口間際で、木立の一番端に立った樹が搔き回されるのを見上げていると、にわかに動きが強まって、既に乱れていたものに拍車が掛かってさらに荒れ、くっきりと重いような響きの降ってくる下を過ぎたあとから、遅れて厚く、風が正面から顔に吹きつけて来た。道中も風が時折強く走るなかを、吹き飛ばされる落葉のようにして雀が宙を滑り、飛び交っている。家の傍ではかすかな滴が顔に散って、瞼のあいだに入りこんでも来たが、それもいつかなくなって、傘を使う用は生じなかった。
 帰路、道端の樹の木末が黒くわだかまり、縺れたような影となって、その向こうに覗く空は樹影とほとんど色の差異も見られず、月も星もなくて暗く墨色に沈んでいた。前日までは歩いていれば、足を炬燵に突っ込んだように靴のなかが温もったものだが、この夜は雨のあとで、大層緩いが風があり、暑気は多少ましなようだった。それでも血が身体を巡るうちに、襟足がやはり濡れてくる。家の前、戸口のすぐ下まで来たところで東南の空に、不注意でちょっと擦り付けてしまったかのようなオレンジ色の断片を見つけた。見つめていると目の錯覚でその輪郭が膨張と収縮を繰り返すのだが、それにつれて色の範囲も実際にゆっくりと広がって円みを帯びて行き、少々欠けた月の形を成したかと思うと、膨らんだ時と同じ緩慢さで周縁部から少しずつ嵩を落として行くのに、完全に消えてしまうか否かと物語の先を予想する心で見守っていると、月は果たしてくすんだ雲の膜に呑みこまれ、表面に何の痕跡も残さず隠れきって、綺麗な終演が訪れた。