2017/7/17, Mon.

 蟬の羽音のばちばちと響く正午前の林から、夜の更けかかった帰り道まで、風の多い一日だった。夕刻の往路には熱が籠められて漂っていたが、柔らかな風が生まれて吹きこんで来ると、糸のように腕にまつわって、暖気を搔き混ぜ乱してくれる。陽射しは幸い雲に絡め取られて、街道を行く車の底から、影もほとんど湧かない。新聞屋の前、丁字路の角で白の百日紅が咲きはじめており、きめの細かい清潔な泡を丸く膨らませて枝先に受けたようになっているのを、遠目に見留めた。無造作な雲に濁りつつも明るい空に、西では大きな塊が丘の向こうから伸し上がるようにして天頂に突き出し、それとて暗むではなく、陽をしっかりと包みながら内からその光に浸されているのだろう、毛布のように穏やかで涼しい青に一面染められていた。道の終盤で振り返ると、光の切れ端が雲の際から沁み出して、空との境界部分が灼きつけられたように輝いていた。
 建物を出ると路面に水気が小さく残っているから、屋内にいるあいだに一雨通ったらしい。威勢の良い風が道を埋めるようにして正面から吹き流れ、そのなかに久方ぶりで、冷涼と言うべき感触の含まれているのが、更なる雨の予兆めく。雲はほつれながらも黴のように湧き、合間から暗みの覗く下を街道まで来ると、風がさらに勢いを増して草を煽り、木立からは葉擦れをざわざわ立てさせるのに、いよいよ雨の近いかと、いつ来るとも知れぬものが落ちはじめるのを窺うような目になったが、顔に触れるものはなかった。今夜中か、それとも明日にはと思って帰れば、翌日は雨だと聞かれて、さもありなんと得心が行ったものだ。