2017/7/20, Thu.

 風の多く流れる日だった。自室にいればカーテンが膨らみ、便所に行くと外の林が騒ぐのに雨が降りはじめたかと、室を出て玄関先を覗くまで錯覚させられる。夕刻五時に出た道にも風は厚く向かって来て、耳の穴を覆ってばたばたという響きをぶら下げるのが、久しぶりの感覚である。樹々のなかを上って行くと、重なりはじめたニイニイゼミの声が左右に拡散し、その向こうから鶯の音も落ちた。街道まで出れば例によって夏の太陽が身を包むが、このくらいの陽射しにはもう慣れたなと、ポケットを手に突っ込み顎を持ち上げて、余裕ぶったそぶりで道を行った。風鈴の音が、どこかの家から響いていた。
 夜は外に出た途端に空気の温さが感じ取られた。風というほどのものも吹かず、停滞気味の鈍い空気に、両の手のひらがべたついている。頭が痒くなるような生温さに、室内にいても汗をかいて垢が身体に溜まり重なっているのだろう、昼間よりも肌が粘るような感じがした。空も鈍い。思いのほか雲が出ており、家の間近まで来ると、山の姿が薄墨色の空に侵食されて、境が淡く霞んでいた。