2017/8/2, Wed.

 木下坂に吹く朝風の涼しくて、速まれば久しぶりで肌寒さすら感じさせるような曇天だった。気温はせいぜい二七度か二五度かそのくらいに留まった日で、歩いていて汗も湧かず、この夏に珍しく、蟬の声がまったく聞こえてこない道だった。裏道途中の家の百日紅の、その枝先にまだひらかず結んだ蕾から沁み出るようにして、淡く灰色がかった雫がいくつも垂れ下がっているのを過ぎざま見上げた。しかし、それは本当にこの日の行きの時間のことだったか。朝にはまだ降っていなかったはずで傘を使った記憶もないが、前夜も続いていた雨が深く残って、去ってまもなくの頃合いだったのか。葉が吐く息のごとく森の天辺に薄霧が漂っていたのを覚えているので大方そうだったのだろうと思いながらも、止んで少なくとも二、三時間は経っていたはずで、すると雫が木に留まるかと疑わしく、記憶が索漠としてくるようではあるが、淡紅をはらんだ円みの下にもう一つの透明な小球が繋がって、落ちず静かに堪らえているそのさまだけは、眼裏にくっきりと残っている。
 帰路はまた雨に行き会った。前日よりも三時間ほど早い昼下がりだったから、降りながらもまだ明るくて、柔らかに白いような雨だった。街道の裏にいるあいだは蟬もほとんど聞こえなかったはずで、静かな道を終盤に来てから林の近くでようやく、ミンミンゼミが一匹、弱い声を立てていた。