2017/8/3, Thu.

 坂を行けば頭上から、朝から早くも旺盛な蟬の声が宙を搔き毟るように降って、その外から鶯の音も一つ立った。ここのところ引き続いている曖昧な曇天に、昨日ほどではないにせよ、この日もかなり涼しく、過ごしやすかったはずだ。街道に出るまでは止まっていた風がじきに吹いて、裏に入ると道を埋めて前から滑ってくるその質感に、白い空を見上げて雨を思った。行き帰りのあいだには降らず、夜になってから静かに始まっていたようだ。
 早朝に起きねばならぬというのに性懲りもなく夜を更かしているために、身に気怠さが付きまとって鈍い朝の道だった。張らず緩んで半端な瞼の、胡乱な目つきをしていたのではないか。景気の悪い顔で歩いているうちにそれでも脚はほぐれてきて、そうすると不思議なもので、睡気もいつの間にか薄まって、瞼に掛かる力もなくなって顔の皮が張るようになり、駅前の横断歩道を渡る頃には身の内にそれなりの意気が生まれていた。仕事はそれで、つつがなく済ませる。
 来た道をまた歩いて戻るのが億劫になって、帰りは電車に乗った。降りて入った坂では、昼の真ん中で朝よりもますます盛んになった蟬が、水をびしゃりと放つように一面に烈しく声を撒き散らし、頭の周りを満たしてほかに何も聞こえない。帰り着き、時が下って青暗いような夕刻には、自室のベッドに横になって、読書のままならない微睡みのなかで時鳥が繰り返し鳴くのを聞いた。間を置かずに何度も声を立てて続ける、随分と忙しないような鳴き声だった。