2017/8/19, Sat.

 分厚い蟬の合唱が坂の全域に降って頭を包み、耳を聾せんばかりの、内に入りこんで侵さんばかりの騒がしさである。低みからは、連日の雨で勢いを増しているらしい沢のざわめきが加わっていた。雨も伝えられる曇り空だが、最寄り駅へと上る合間に肌は汗ばむ。電車に乗ると半分は本を読み、半分は瞑目の内に休んで立川に至った。月に一度の会合の期日だった。
 郵便局に寄ってからすぐ傍の喫茶店に入ったところが、席に空きがない。やってきた友人とも合流して他の店を探り、都会的なポップスの掛かる一店の二階に落着いた。二、三時間、話をしてから出ると、交差点から見上げる広い空に薄暗んだ雲が湧き、通りの空気にも鈍色が忍びこんで、雨を思わされる。歩道橋に上がって見晴らした南西の空に、僅かに白さの明るい一帯が覗いていた。
 書店を回り、次の会合までには葛西善蔵を読むことになった。出てくると雨が降り出しており、結構な勢いで音を立てながら落ちるが、風はあまりないようで、まっすぐ下って吹きこんで来ない。傘を持っていない大方の人々と同様に、歩廊につけられた屋根を辿って渡った駅前広場、屋根の縁から激しくぼたぼたと垂れ落ちる雫の壁を前にして、運動着姿の日に焼けた女児らが手を伸ばし、陽気にはしゃぎながら水に触れていた。時間は早めだったが駅ビルのなかにあるお好み焼き屋に入って、鉄板を前に汗をかきながら八時までゆっくりと食事を取った。
 帰路に就いても雨は続いて、最寄りに戻ってきても残って、しかしもうそれほどの強さでもない。傘はないので濡れるがままに、丸めた鞄を抱えて慌てずに帰った。夜半に至るまで窓外で、鈴をちょっと振り鳴らすような、房なすような虫の音が散らされて、秋に移りつつある風情らしかった。