2017/8/20, Sun.

 大層な寝坊をして昼近くに覚めると、寝床が薄陽のなかにあった。久方ぶりの暑さと思ったがじきに曇って、図書館に向かう道中、木下坂を抜けると脇に停まった車の黒いガラスに、うっすら白い西の空が映りこんで太陽は稀薄に印される。東は水底に立つ砂煙のような、青灰色に沈んだ雲が広くあたりを占領し、雨を思わせ、湿気の満ちた蒸し暑い大気に服の裏も粘って汗ばむ。路地と線路に沿った林からアブラゼミもミンミンゼミもツクツクホウシも、果ては薄く蜩までも勢揃いに次々混ざって鳴き立って、時計を見れば時刻はちょうど四時を指していた。
 図書館をいくらか回ったあとは新訳文庫のコンラッド『闇の奥』のみ借り、さっさと駅に戻って乗車、乗り換えを待ちながら何をするでもなく立ち尽くすホームに、丘から絶え間なく泡立ち湧いて止まない蟬の声が届く。上空には薄灰色の雲が掛かっているが、風はないらしく、動きは見極められぬほどのろく、熟成したような深緑に染まった梢も僅かにも揺れず、地上の身にも涼しさは触れて来ない。最寄りで降りて家の間近まで来ると、鳴き声の籠った林のなかから蜩の音が一つ際立って、カナカナと残響をはらみながら伸び出してはまたするすると消えて行った。