2017/8/25, Fri.

 一週間の労働もこの日で終い、済めば二日の休みが待ち受けている金曜だが、それを思っても気持ちは特段晴れ晴れとせず、気怠いような朝の出発となった。昨日とは違ってこの日は風が走らず、坂に落ちる葉もなく、ただ蟬の声だけがうねりながら降る。街道を越えて裏路地に入る間際、角の家に咲いた百日紅をちょっと見上げた。路地の途中にある一軒の、花の落ちたあとにはまるで枝が短く縮んだようだと先日記したほうの木は、その後見ると実際早めに手が入って伐られていたのだとわかったが、こちらの角のものはまだ触れられておらず、ピンクの飾りが明るく膨らみ、無骨な瘤を隠して小さな屋根のようになっている。
 道に雲が多かったが、隙間もあるようで時折陽が洩れ、そうするとやはり暑く眩しく、視線を上げることもできず俯き気味になって、すれ違う人の顔も空の模様も定かに見た覚えがない。駅の間近になった頃、見える範囲に一人も他人のいない静かな時間があって、角を曲がればすぐに破れてしまったが、それまでの束の間は朝の出勤路でなく昼下がりに歩いているような、気分の広くなる落着きを覚えた。
 今週最後の仕事が引けるとすぐさま駅に入って、電車では扉際に就き、ガラスの外の何でもない雑草をまじまじと見下ろして発車を待った。家の最寄りに曇りは続いており、朝よりも広がったようで陽も射さず、勿論暑いには暑いがそれで蒸すでもなく、三六度まで上がると聞いていたわりに凌ぎやすい大気だった。雲の下の空気は遠くで霞んで、下り坂の途中で木の間に現れた山の、緑が平坦に薄まって空間を埋めるのが瞬時には山とも見えず、林のすぐ外にまさしく壁が立ったかのように映った。そうして出た通りの、近所の家の隣で斜面から張り出すように生えた百日紅の、空中に掛かった薄紅さをやはり鮮やかだなと見て、過ぎてからも振り返り振り返り、何度か見上げながら帰った。