2017/8/29, Tue.

 誰が依頼したのか知らないが、昼頃から人足の出張る姿が近所に見られて、こちらが出かける頃には仙人草の群れは完全に駆除されていた。毒を持っており、触れると皮膚炎を生ずると言う。その草のことを知ってから改めて歩いてみると、道端に生えているのをいくつか見かけ、これでは子供などが知らずに触って苦しむこともあろうと思われた。坂では蟬の裏から、短く高い声が落ちる。鳥の声というものを、随分と久しぶりに聞くような感じがした。
 裏路地は全面に陽が敷かれて、避けようがない。出発の前から汗をかいていたところに肌が尚更濡れて、鼻水もやたらと出て、鼻をすんすん鳴らしながら行く身に、眩むと言うと言い過ぎだが、どこか不安定な調子があって、このままくらりと倒れるのではと久しぶりに過ぎった。不安障害の残滓と言うべき大袈裟な思考で、症状が重かった時期にもそう思って実際に倒れたことはない。しかし陽の重さに、道は長くなる。そう思うと、かえって急がず、長さに身を委ねるような心地になる。のたりと歩きながら、険しい顔をしていたようだ。
 働くあいだは終始鼻水に難儀させられた。粘りのない、ほとんど水のような液が止まらず、マスクの裏で垂れ流しとなり、ハンカチやティッシュをしばしば顔に当てる。鼻を吸い続けたために空気を呑んだのだろう、どうも身体がおかしくなって、熱を持った感じもあり、風邪のようでもあるが、花粉が飛んでいるという話も前日聞いた。終える頃には大層疲れ、頭痛もあったが、前歯の神経が疼くのが煩わしかった。
 電車に乗って降りるとホームをまっすぐ辿った正面、西の空に赤味を帯びた半月が浮かんでいた。坂には鈴虫のものだろうか、鉄琴めいた澄んだ鳴き声が余韻を残して長めに伸びる。忌々しい歯の疼きを感じながら下りていると、目の前を素早く通過して落ちる葉があった。暗がりで色も定かに見分けられなかったが、重みを持った速さからして実がついていたのだろう、その勢いは飛び降り自殺を思わせた。
 頭痛のために書き物をする気力も湧かず、風呂を済ませたあとは鈍い刺激に耐えつつ書見を続けて、二時前には床に就いたが眠れなかった。頭というよりは鼻や目の奥、顔の内部で虫が動き回っているように痛んで、目を瞑っていると殊に痛みが迫り、中身をそのまま取り出して捨てたいというほどに消耗させられた。何とか寝付いたのは結局、四時を迎えた頃だった。