2017/9/1, Fri.

 遅く起きた午前、窓には青々と、偏差なく晴れて一筋の乱れも見せない空が映るが、もはや夏の空気でない。窓辺に風のするすると、湧き水めいて流れこみ、時折身体の上でうねるのが起き抜けの肌を震えさせた。秋晴れの空は昼過ぎから曇り、道に出た夕刻には全面隙間なく、雲に覆われている。色と明度の差のみで襞もなく、ひと繋がりに推移して区分の曖昧な雲の膜である。坂を行くあいだ、蟬の声がまったく聞かれなかった。
 まもなく雨が落ちはじめたが傘を取りに戻るのも面倒で、降り増さぬようにと願いながら行く顔に、風に乗った粒が掛かってシャツにもぽつぽつ染みを生む。その風がしかし、湿り気の重さはなくて肌に柔らかいようで、となれば雨は増さないかと、当てずっぽうの天気読みだがそう思って行けば、確かにじきに消えた。裏に入る間際で見上げた百日紅の、澱んだ白さの曇天に枠取られてか、紅色の褪せていくらか衰えたように映った。路地をしばらく行ってからもう一度見上げるとしかし、灰色混じりに白いなかにも行く手に青みが透けていて、雲はそれほど厚くないようではあった。
 勤めのあいだに一時降って帰る頃には止んでいたけれど、電車と一度固まった気分が変わらず駅に入った。最寄りに降りると夜空は暗んで、海底から見上げたように闇の濃く張って包みこむなかに、かすかな靄の、たった一息のみ吐かれたようにくゆって、あそこに月があるなと辛うじて見分けられた。坂には風が吹き、周囲の樹々が絶えず揺らされ、地に落ちた影も応じてざわつく左右から、鈴虫のようで繊細な震えを帯びた鳴き声が余韻をはらんで伸びる。林のあちこちに楽器の仕掛けられていて、通る風に感じて奏でられるかのようだった。