2017/9/13, Wed.

 彼岸花のひらきはじめた時季である。暮れも近い五時から出かけると、林の横を通るあいだに次々と落ちるものがあり、見れば足もとには若緑色の団栗が葉をつけたままでたくさん散らばって、踏み砕かれた実の粉で道に薄茶色が差している。蒸し暑い日で、外に出る前から汗が滲んでいたが、坂では風が丸く膨らんだシーツのように正面から身に触れてきた。ミンミンゼミが木立のなかに、もう時節も過ぎてやはり鈍いようだが、一匹、鳴き残っている。空は一面曇って、しかし雲は薄いようで水色がうっすらと透けて混ざっていた。
 凝った身体を前に押し出す力も湧かず、とろとろとした調子で路地を行くうちに、いつか行く手に陽の色が洩れ出しているのに気がついた。応じて振り向けば、雲を半ば逃れて丘の際から、艶めき燃えるオレンジの塊が光を発している。ちょっと進んでからまた見返ると、背後に伸びて行く細い路地のまっすぐ正面、道の果てた先の空に穏やかになった夕色が溜まっていた。
 駅を降りると、円形歩廊の内に立った街路樹に、例によって鳥が群がってけたたましく騒いでいる。高架通路からは梢が近くて、枝葉のなかに見え隠れする姿の、墨色を基調に茶の混ざって濁ったような色合いのあれが、やはり椋鳥なのだろうか。自然界に本来備わった声というよりは、ほとんど人工的な電子音とも思える渦巻くような質感の鳴きを周囲に撒き散らしているその横を過ぎ、図書館に入って各所を見回った。元々目当てだった金井美恵子カストロの尻』に加えて、以前から気になっていたマリ・ゲヴェルス『フランドルの四季暦』も、取って見てみると読みたくなって、二冊を持って貸出機へと踏み出すと、南の大窓にひらいた黄昏の空が一面、紫色に染め抜かれている。淡く広がっているらしい雲が退きかかった光の色を各地点で受け止めて、西から東にかけて赤から青へと色調を移しながらも、それらがすべて紫の膜に包まれ、統合されていた。

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 老婆が自転車に乗って行く。後部の荷物のなかから一本飛び出した、ススキのような穂のある植物。

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 駅、ホーム。正面、線路の向こう、居酒屋の室外機の起こす風に、その前にある雑草が揺れて、手を振っているように見える。歓迎の記号とも別れのそれともつかない左右への傾き。