2017/9/25, Mon.

 玄関を出ると正面の林に、ツクツクホウシが辛うじて残って、ただ一匹で鳴いているのが耳に入った。ポストから夕刊を取っておいて出発すると、家の近間の道にも坂にも陽はもう射しこまないが、空気がかすかに黄色いような暮れ方の風情である。街道まで行って西空を仰げば丘の間際に掛かった雲の、焼けるというほどでなく穏やかに色づいて、橙色に暖められたようになっている。日なたも光線もやはりないものの、この日はそれほど涼しさはなくて、ふたたびネクタイを外したワイシャツのみの装いに戻った身体に、温みが生じていた。
 落着き払ったような足取りで裏路地を進むと、ここにも蟬が残っていて、森のなかから跳ねるような声が、玄関前とは違ってまだいくつか重なり合って伝わってくる。歩いているうちに、表にいる間はまだ淡かった東の果ての雲の薔薇色が強くなり、応じて反対側のオレンジ色もいくらか密になって、辻で目の前を横切り下って行く車のガラスに、淡青と夕映えとを組み合わせた空が映りこんで過ぎて行った。
 同僚の一人が肌寒いと言って上着を着ていたけれど、夜になってもやはり大して涼しくもなく、汗を感知するほどでないが肌は温もった。特段の印象もなく裏道を過ぎて、表道で真っ黒な車の脇を通り際、ガラスのなかに夜空とともに街灯の入って隅で光っているのが月を思わせた。空には青さが窺えるものの月の出のよほど遠くなった時期で、もう明けたあとになっているだろうと思ってあとで調べてみると、この日は朝の一〇時だったらしい。入りが九時前、ということはこの夜は落ちてしばらく経っての帰路で、暗夜は過ぎて青みの戻ってきながらも、菌のように雲に侵食された空だった。