2017/9/30, Sat.

 木の間に跳ねる鵯の声を耳に坂を上って行き、着いた駅のホームから見上げた空は一面が薄白く、つい先ほど、坂下の道であるかなしかに洩れていた陽射しもいまはもうない。線路を挟んで向かいの道に連れられた犬の、縮れた毛のふさふさとして可愛らしいような顔をしたのが、電車到着のアナウンスが鳴ると途端に盛んに吠えだして、入線してくる車両に向けても威嚇するように哭いて止まらなかった。
 立川に着くと、駅前に溜まっている黒塗りのタクシーの、窓ガラスの縁に沿って光が横にゆっくり滑り、雲の分かれて空には薄水色の顕れはじめている昼前だった。雑居ビルとそれに付随した看板のこまごまとした連なりの下、線路沿いの通りをそぞろ歩きながら揺らめく人々の姿の、淡い空を伴ってまっすぐ遠くまで見通されるのが、気持ちのひらくような一つの風景として映じたようだ。友人と喫茶店で話しているうちに、雲が勝って陽射しは薄れたらしかったが、三時前には外の空気がふたたび明るんでおり、窓の端に覗いた空の白く満たされてはあるものの、艶のような光の触感を帯びていた。
 午後も進むと書店に移り、各所の棚を見回って出ると五時前、落ち行く途中の夕陽がちょうどビルの線上に掛かっており、濃密なオレンジの塊の身を歪めながらも目映く溢れ、背後を向けば並び立つビルが薄布を掛けられたように色づけられて、雲は掃かれてすっきりと晴れた空だった。たびたび横から射しこんでくる夕色を目に受けながら駅に向かい、構内に入ると、境のあたりに佇んでいる托鉢僧の鈴の音が、雑踏のなかでも際立って渡る。
 扉に寄って本を繰っているあいだ、電車の外では下る太陽の西空に広がり、光に巻きこまれた近くの雲が雪花石膏の彫刻めいて固められていた。太陽はもう結構低くて建物に隠れがちだが、時折り手もとに寄ってきて、ガラスに映るこちらの手首を血色良く色づかせるとともに、本の小口を明るませ、頁の表面で瞬間的に、白と薄青の配置を反転させる。降りる頃には暮れた空気のだいぶ涼んで、乗り換えを待つうちに、和紙のような空の青が暗むにつれて寒々として、最寄りに着くと上弦を越えたほどの半月が出て、群青色の空にまっすぐ立っていた。