2017/10/19, Thu.

 夕刻に至れば、服を整えて室内にいても首元がやや頼りなく、マフラーを巻きたくなるような空気の冷たさだった。玄関をくぐって脇の傘立てにあった一本を掴むと、これも柄が随分と冷えており、それをひらいて進む雨道にすれ違う中学生らの顔も既に小暗く沈んで細かには見えない。街道の上、まだ遠くに見える車のライトの路面に厚く、水に混ざっているというよりは光そのもので構成された液体のようであり、ある種の原生生物を思わせながら滑らかに推移してくるその金色の強さ明るさは、綺麗と言うべきものだろうか、ともかくもやはり印象深くはあった。北側に渡ると、今度は信号灯の化学的な緑色が溶け出して道路の縁に長く伸びるのが、歩を進めるにつれて奥へと退いていつまで経っても踏むことができず、車はこちらでは後部の赤いライトを二つ、不安定に揺らぐ縦線として垂らしながら走って行く。
 黄昏の青さも映らぬ曇り空と見上げて路地を行くうちに、しかしいつか青みの湧いていて、見回せば西の方はより色濃く、東はある高さを境に何色ともない地味な色合いにくすんでおり、いまちょうど空に青の染みていくところらしい。
 帰路に雨は微かで、一応傘を被っても頭上に響きの生まれないほどで、電線から落ちてくる粒がただ時折り鈍い打音を立てる。電灯の暈も乱れずすっきりと映える通りの内の静けさに、左右の軒の雨垂れの音のてんでに小さく混ざった外から、虫の声のこれも遠く幽かに伝わってくる。あれはエンマコオロギと思うが、軽やかに回すように伸び上がる鳴き声の、ほかはどれも低く味気ないもののなかに明るく立って、少々滑稽味をも帯びて聞こえるようだった。