暮れに掛かった頃に、居間の卓で温かい豆腐を口に運びながら南の窓の外を見やると、もうだいぶ傾いた夕陽の光の、遠くの樹々に投げられている。夏のそれと違って粘りの弱く淡白なような光線の、薄らいだ緑に重ねられて、黄色とオレンジを半ばずつ含み穏やかに映えているのが、これも秋の色というものかと思われた。室内から三方のガラスの端に見る限り、空は雲のすっきりと除かれた晴れである。
それからしばらく過ごして路上に出た頃には、陽も山のあちらに退いて、空は和染めを思わせるような精妙な淡さに朧な風で、一息分の曇りもなくてひらかれきった快晴のはずが、地の色の妨げられず現れていると言うよりは、何か覆うものの隠れているかのような気味だった。街道まで行くと、樹々の影の向こうから蒸気のように揺らいで昇る薄朱[うすあけ]の色の、家を出た直後よりも濃く明瞭に映っている。太陽は着々と西へ遠のいているはずだけれど、残照のうちから純白の消えて、迫る青さの暗んで行くのに応じて映え返すのだろう。先日よりも太った月の、丘からも離れてやや高くなったのが、道行くうちにより明らかに刻まれていく。風邪は長引いており、鼻から空気を吸う際に粘膜に擦れて咳が誘発されるのを、初めは散らしていたが見苦しいので途中からは耐えて歩いた。
夜に空気は大層冷えて、両手はポケットに収めているが、もし服の表面に触れればどこであれ随分冷たいのだろうと、生地の内に収まった肌からもわかる。月が日暮れとともに早くに落ちる時季なので、晴れ渡った夜空の闇の稠密に暗み、むしろ曇りに沈んでいるかのごとくに星も淡い。月を囲んで際立たせていく黄昏の青の何かどす黒いかのような、と夕方にも思ったが、あれも月の細さ光の弱さのためだったか。