記憶に残っておらず、メモも残していない諸々については省略する。
出勤時、玄関の外に出て、ポストから夕刊を取る。「エルサレム首都 国連総会が「無効」 日本など128か国賛成」という記事をちらりと見る。ヘイリー米国連大使が実に無感情な顔で映った写真が載っている。帰宅後にストーブにあたりながら記事を読んだところ、「米国のヘイリー国連大使は、「米国は主権を行使したことを攻撃されたきょうの日を忘れない」と述べ、「投票結果は覚えておく」として「報復」を示唆した」と言う。これは平たい言葉に翻訳すれば、「お前ら、覚えておけよ」と言っているのに相違ないはずで、そう考えると一体どこのチンピラなのかという感想も浮かんでくるものだった。あとは、「各国の投票態度」として、賛成、反対、棄権の三項目に分けた表が付されていたのだが、反対の九か国をみると、米国、イスラエル、グアテマラ、ホンジュラス、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦、ナウル、パラオ、トーゴという面々で、この並びも少々面白いように見えた。
往路のことに話を戻す。時刻は四時前だった。日なたを求めて表の道を歩く。街道の湾曲部まで来ると、大きな日なたが作られており、西南からの陽射しを浴びせられる。こちらの影が道から離れて伸び、沿道の家の壁や塀の上にまで掛かる。カーブを曲がってまた道がまっすぐになるところで、向かいの家を意識に留めて、そう言えばここが稲葉の実家ではないかと改めて認識した。その宅にも光が放射されており、壁に細かな襞というか凹凸が施されているのだろうか、ラメ状とも言うべき白光の帯び方になっており、塀の家に僅かばかり生えた低木の影がその上から付されていた。
駅前の交差点まで来ると、何やら警官が一人いる。こちらが横断歩道の信号を待っていると、警官は笛を大きな音で何度か鳴らしていたのだが、警告といった感じでもなく、かと言って交通整理をしているわけでもなく、一体何に対して吹き鳴らしていたのかわからなかった。
帰路、焼肉屋の駐車場、あるいはスナックの脇で、いつもの猫に遭遇する。炭を使って肉を焼いている匂いが漂っていた。
この日は午後から両親が北関東へと旅行に出ていたので、夕食は自ら用意しなければならない。カップ麺でも一向に構わないわけだが、折角だからやはり何かしら作ろうという気になり、台所に立つ。簡単なところで、玉ねぎやエノキダケと豚肉の炒め物を作る(あと一つ、何かしらの具があったと思うのだが、思い出せない)。材料を切ってフライパンで炒める段になり、調理台の下部をひらき、油を取ろうというところで、オリーブオイルというものを使ってみても良いのではないかという思いつきが到来し、いつも使う通常の油ではなくてそちらを使用した。味付けは、バター醤油という気分になって、そのように施す。思いのほかに多く、フライパンがいっぱいになるほどにできる。翌日の一食目もこれで良かろうというわけで、食後、皿に取り分けて冷蔵庫に保存しておく。
時間が前後するが、この日の労働は、あまりうまく声が出ず、心の落着きの具合もどちらかと言えば低次だったらしい。具体的な記憶はまったく残っていないが、気分がやや急いていたような気はする。