この朝も何かしらの夢を見たはずだが、既に忘れてしまった。七時の携帯アラームで布団を抜けたものの、例によってふたたび寝床に戻ってしまう。この日は前日に引き続き父親が休みで、朝から墓参りに行くという話になっていた。それで何度か、天井が鳴ってこちらを呼ぶ音がしたが、それを無視して横たわり続けた。身体にさして重さがあるわけでなく、眠り足りないという感じがあるわけでもなく、ただ何だか起き上がるための活力が湧いてこないのだった。それで寝床に吸いつけられたかのようにして時間を過ごし、出かけていた両親も帰ってきたあと、一〇時五五分になってようやく身体を起こした。上階に行き、顔を洗ってから食事を取った。豚汁にハム入りの目玉焼きで、米の類は食べなかった。こちらがものを食べはじめた頃、父親は畑に出て、母親は再度買い物に出かけて行った。卓上には「iHerb」の文字を記された段ボールの小箱が置かれていた。こちらの注文したN-アセチルL-チロシンがこの午前に届いたのだ。食後、段ボールを鋏で切りひらいてサプリメントのボトルを取り出しておいたが、まだ飲みはじめはしなかった。今飲んでいるバコバハーブがなくなってから、それと入れ替わりにこれを摂取しはじめるつもりである。食器を洗うと風呂掃除もしてから、緑茶とサブレを持って自室に戻った。一一時四五分頃だった。茶を飲みながら娯楽的な動画を眺めたのち、一二時四五分に至って日記に取り掛かりはじめた。しばらくすると母親に呼ばれたので上階に行ってみると、畑の父親に食事を届けてくれと言う。それでカレー風味のドリアやらサラダやらが乗った盆を持ち、裸足にローファー型の靴を履いて玄関を抜け、家の南側に回った。ゆっくりとした足取りで通路を歩くこちらの足もとを、オレンジ色の蝶が飛び交い、草と戯れていた。父親自ら作った木製のテーブル席に膳を置くと、眼下の畑にいる父親に呼びかけ、飯、ここに置いておくからと知らせた。そうして戻る途中、草むらのなかの葉の一枚に、先ほど見かけたオレンジ色に斑点の付された蝶が乗っているのを見つけて立ち止まり、葉の上に静かに止まりながら翅をゆっくり広げては閉じるその姿を見つめた。そこにいるあいだに陽が出てきて背に掛かったが、さらりとした秋の空気のなかでその熱が、暑いのではなくむしろ気持ちが良いようだった。室内に戻ると、母親がこれも持って行ってと示すのは、氷の入ったカルピスの注がれたグラスである。それでそれも持ってふたたび外に出ると、林からツクツクホウシの鳴きがまだ立っていた。家の南側に向かって下りて行くと、上ってきた父親と出会ったので、向こうに置いておくよと掛けてすれ違い、テーブル席にグラスを加えておくと、自室に帰った。そうして書き物に戻り、一二時四五分から合わせて四時間のあいだ、黙々と日記作成を続けて、一七日のことは一万五〇〇〇字近くに達し、その翌日は反対に一〇〇〇字未満で簡易に綴り、さらにこの日の分まで書き綴ることができた。四時半前にはインターフォンが鳴ったので上階に上がって行った。玄関を開けると、予想していた通り(……)さん(トラック行商の八百屋)である。挨拶をして、今、下にいるんでと母親のことを指し、訊いてきますと言って家の南側に回る。帽子を被り、しゃがんで草取りをしている母親に、(……)さんが来たと伝えると、今日はいいと言うので、家の角を曲がり、上の道にいる(……)さんに向かって腕で✕印を作って示した。そうして坂を上って、運転席に乗りこんだ彼の近くまで行き、すみません、またお願いしますと残して見送ったあと、郵便を取ってなかに戻った。その後、夕食の支度にはピーマンと牛肉を炒め、またブナシメジの味噌汁を拵えた。それから下階に戻るとギターを弄り、部屋が暗んだ午後六時になって止めると、自室に入って(……)さんのブログを読んだ。ここのところ読めずにいて未読の記事が溜まっていたのだが、一五日のものから最新の一八日のものまで一気に読んでしまうと、一時間が過ぎて時刻は七時を越えていた。そうして食事を取りに行き、食物を摂取してから風呂に入ると、湯のなかに浸かって目を閉じた。外から響く虫の声が継ぎ目なくひと繋がりに大きくなって、空間の途中に差し挟まれているシートのようだった。入浴後は特に日課の記録も付いておらず、長く、だらだらと過ごしたはずだ。そうして午前一時に至ると読書に入ったのだが、それは残り少ないカロリン・エムケ/浅井晶子訳『憎しみに抗って 不純なものへの賛歌』を読み終えてしまいたかったのだ。僅かな残り頁を三〇分で読了したあと、そのまま続けて金子薫『双子は驢馬に跨がって』を新たに読み出し、二時を回ったところで切りとして、眠る前の瞑想を行った。ころころと転がる硝子の玉のような虫の声に耳を寄せたあと、二時一七分に至って目をひらき、明かりを落として就床した。