一一時五分起床。まあまあ糞である。上階へ。母親は「K」の仕事。一年前に行っていたのにこの四月からひとまず復帰してみることになったのだ。前日の残りもので食事を取る。卓に就きながら、新元号の発表の時間が近いから、たまにはテレビでも掛けてみるかということで点けるとNHKが映り、皇太子殿下の平成における歩みを追っているところだった。食べているうちに予定の一一時半が近くなる。途中、中継で渋谷が映り、ハチ公前に人々が集まって祝福ムードのようで、鹿児島から来ているという女子にレポーターが質問をしようとしていたが、訊きはじめたところでスタジオからの速報にカメラを奪われてしまった。こちらは薬を飲み、皿を洗い、一一時半まであと二、三分というところで便所に行くと、家の前に宅配便の大きなトラックが停まる音がしたので、また何か届けられて来たなとわかって、水を流して室を出るとインターフォンが鳴るのを待ち構えた。そうして果たして鳴るものが鳴ったのですぐに出て、ヤマト運輸だと告げられるのに少々お待ちくださいと置いて玄関に出て、礼を言いながら受領書に印鑑を押し、兄宛の荷物を受け取った。礼を言って扉を閉め、戻ってテーブルの上に荷物を置くと、一一時半を過ぎたもののテレビの会見場にまだ官房長官は現れていない。それでテレビを消して階段を下り、自室に戻ってコンピューターを立ち上げた。前日の記録を付けたり家計を記録したりしているあいだに、Twitterで首相官邸のアカウントがツイートした生中継の映像が流れてきたので視聴すると、新元号は「令和」だと発表された。『万葉集』が出典だと言う。Twitterのタイムライン上では即座に皆が、可愛らしいだのダサいだの、ラ行の音から始まるのが斬新だだの、その他様々な評価を漏らしはじめるが、たかだか二文字の語句に対してよくそんなに思うことがあるものだ。その後、こちらは日記を書きはじめた。新元号が発表されてもこちらのやることは変わらないというわけで、書きながら途中、桜の描写などTwitterにも流しておき、一二時一〇分から始めて、ここまで綴ってもう一時が目前となっている。BGMは例によってFISHMANS『Oh! Mountain』を採用した。
一時一八分から、二〇一六年六月二三日の日記を読み返した。現在の日記に改めて引いておくほどではないけれど、多少の具体性を持った描写というものがある。そういうものはTwitterの方に流しておき、それから、Mさんのブログ。久しぶりにKさん、Rさんが登場。彼女らとの交流の様子を読み、次に、fuzkueの読書日記も一日分読んだ。そうすると時刻は二時直前、遅めの昼食にレトルトのカレーでも食べるかというわけで上階に行った。玄関の戸棚からカレーのパウチを取り出して、水を汲んだ小鍋を火に掛ける。蓋をしておき、加熱している合間の時間を風呂洗いに使うことにして、浴室に入った。蓋を取り除いて室の隅に立てておき、洗濯機に繋がっているポンプを持ち上げて水を排出させたあと、バケツに収めて置いておく。それからブラシで浴槽を擦り、全体を洗剤の泡で覆うとなかから出てきてシャワーで流した。浴室を出てくると鍋の湯が沸いていたので、レトルトパウチを一つ投入し、卓に就いてテレビを点けた。すると在位三〇年記念式典の際に言葉を述べる今上帝の様子が映し出されたが、国民への感謝を述べるそのスピーチのなかで、「民度」という言葉を使っていたのに少々驚き、引っ掛かった。短絡的な思考を持った悪辣な界隈の人間が、韓国や中国の人々を罵るのに使う言葉だというイメージがあったからだ。しばらく視聴してテレビを消し、新聞を読みながらカレーが温まるのを待って、五分ほど経つと台所に行き、沸騰した鍋からパウチを取り出すと鋏を使って切りひらき、大皿によそった米の上に中身を掛けた。そうして卓に戻り、新聞に目をやりながらスプーンですくってカレーライスを食す。プロ・クオリティの称号が冠されたこのカレーは、その名に相応しくレトルトのわりには味にコクがあって結構美味いものである。新聞から読んだのは国際面、アメリカの話題として、民主党のベト・オルークという議員が大統領候補として段々人気を得てきており、バラク・オバマの再来として注目されているというものがあった。その他、同性愛を扱った『ボヘミアン・ラプソディ』の映画が中国で封切りされる際に検閲を受け、何箇所か削除されたという話題も。それらを読みながらカレーを食べ終えると、台所に行って使った皿に流水を落とし掛け、カレーの残滓を流してそれから網状の布で擦って洗い、食器乾燥機に収めておいた。
下階に戻ってくると、今度は「記憶」記事の音読である。町田健『コトバの謎解き ソシュール入門』からラングとパロールの違い、音素について、単語と意味の結びつきの恣意性についてなど確認して、田島範男・水藤龍彦・長谷川淳基訳『ムージル著作集 第九巻 日記/エッセイ/書簡』の記述にも入って一箇所読んだところで切りとした。書き忘れていたが、他人のブログや日記を読んでいたあいだのBGMはFISHMANS『Neo Yankees' Holiday』、この時「記憶」記事を読んだ時のそれはAntonio Sanchez『Three Times Three』だった。それからインターネットをしばらく回ったのち、三時二〇分からベッドに移って加藤二郎訳『ムージル著作集 第一巻 特性のない男Ⅰ』を読みはじめたのだが、最初からもう姿勢を崩して横たわり、枕の上に頭を乗せている始末で、そんな風にしていて眠気が湧いてこないはずがない。実際に文を読んでいたのは三〇分にも満たなかったのではないか。目を閉じたまま時間を過ごして、五時二〇分を迎えたところで意識に一応の切りが付いた。その頃には母親ももう帰ってきており、上階で食事の支度を行っていた。それを手伝いに行かなければいけないとわかってはいたが、起きられず、今日はもう良いかと怠け心が湧いて、それからまたしばらく、意識を落としたわけではないがたびたび目を閉じながら何をするでもなく寝床に横たわったままに怠惰に過ごした。そうして六時過ぎからふたたび読書を始めた。『特性のない男』は、「一種の序文」と題された第一部のあいだは、時代思潮の考察や主要人物の紹介などが主で、目立った物語的展開が見られなかったが、第二部「千遍一律の世」に入って主人公ウルリヒが動き出し、おそらくこの小説の核心的な展開の一つを成す要素だと思われる「平行運動」へと近づいていき、ようやく物語としての流れが生まれそうな予感が醸し出されてきた。布団に包まれながら一時間ほど読んで七時を越えると食事を取りに行った。
母親は仏間にいて、メルカリで売れた品物を包む袋を検分しているところだった。「K」の仕事はどうだったかと尋ねると、とにかく疲れたと言う。運動などはしなかったようだが、近くの公園にまで出向いたらしい。こちらは台所に入って、米に餃子、白菜とキクラゲの汁物、胡瓜と林檎と卵とハムを和えたサラダなどをよそる。そうして卓に就くとテレビはニュースで、安倍晋三首相が元号に込めた思いをスピーチする映像が映し出されていた。ものを食べながらNHKのアナウンサーの解説などを聞き、そのうちにテレビは炬燵テーブルに就いた母親の手によってチャンネルを変えられ、『YOUは何しにニッポンへ?』に移った。番組は、日本にMVの撮影にやって来たフランス人二人――ドラムとシンセザイザーでエレクトロニカ風の音楽を作る兄弟だった――に密着することになった。ものをすべて食べてもまだ何となく腹が満たされない感じがしたので、カップヌードルを食べることにしてシーフード味を用意し、母親と分け合いながら麺を啜った。食事を終えると仏壇に供えられていたドライフルーツを取ってきて、ソファに就いてバナナチップスや柔らかさの残ったパイナップルなどを食べながらテレビを眺めて、その後、薬を飲んで食器を洗った。そうして入浴である。畳んだタオルを洗面所に持って行き、服を脱いで浴室に踏み入り、掛け湯をしてから湯船に浸かった。身体を水平に近くして両腕を縁に乗せながら、散漫な物思いに耽った。途中、思考が中国の方向に向いた時があって、大躍進政策のことを思い出し、数千万人の餓死者を生んだと言うからとんでもないことだなと改めて思った。ホロコーストでさえその犠牲者は六〇〇万人ほどと言われているのだが、文字通り桁が違う。文化大革命もさることながら、大陸国家中国は何であれとにかくスケールが大きい。数千万人の犠牲者と言うと、当時の中国の人口が何人だったか知らないが数億とすればほぼ一割、それが行き過ぎだとしても全人口の数パーセントには上ったのではないか。そうした大躍進政策周辺のこともいずれ余裕があったら勉強しなければなるまいなと思って、風呂を上がった。そうして母親に挨拶してから自室に戻ってくると、Antonio Sanchez『Three Times Three』の続きを流しはじめながら、一方で歯を磨きつつ小林康夫『君自身の哲学へ』の書抜きを読み返した。それから日記を書き出して、ここまでで四〇分ほどを費やし、現在九時二〇分である。
笠原敏彦「【ゼロからわかる】イギリス国民はなぜ「EU離脱」を決めたのか 露わになるグローバル化の「歪み」」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50639)を読んだ。「筆者には、英国が門戸を開きながらも、移民を単なる労働力とみなし、決して歓迎することなく、一方で国民の不満の声を放置してきたことこそが問題の本質のように思えてならない」との指摘があるが、これはこの先の日本でも起こり得る事態だろう。また、欧州統合という政治的な大義に英国はもともと乗り気でなく、イギリスがECに遅れて参加したのも経済的なメリットを得る目的でしかなかったと。欧州移民の増加に加えて、各国のあいだのずれ=歪みが英国のEU離脱の遠因となったのだろう。そもそも、EU創設を定めた一九九二年のマーストリヒト条約自体、フランスの国民投票で半数の支持しか得ておらず、欧州統合プロジェクトそのものがエリート層によって「強引に推進」された、「民意を置き去りにした」ものだったと言えそうだ。英国のEU離脱決定は、そうした「エリート主義」の敗北を証したものだという指摘もあった。
文言を日記に引きながらゆっくり読んで、読んだあとには情報を「記憶」記事に追加した。背景にはAntonio Sanchez『Migration』を流していた。読み終えるとそのアルバムが最後の"Solar"に差し掛かっていたので、幕引きの一曲が流れているあいだ、今しがた「記憶」記事に追加したその情報を早速いくらか音読した。その後、ベッドに移って読書、川上稔『境界線上のホライゾンⅣ(上)』。 身体に布団を掛けながらも姿勢を水平にはしきらず、クッションに凭れながらこれを三〇分か四〇分かそこら読んだのち、加藤二郎訳『ムージル著作集 第一巻 特性のない男Ⅰ』に移行した。伯爵、美しく教養ある女主人、サロン、と来ると思い起こされるのはやはりプルーストである。世紀末を描いた『失われた時を求めて』とは時期が少々ずれるが、『特性のない男』もまた、上流階級の社会風俗を主題とした小説なのだろう。加えて、モースブルッガーの存在などを見る限り、下層民衆の事情も小説世界のなかに取り入れられている。これから先、この二つの世界のあいだにどのような橋渡しがなされるのか、あるいはどのような懸隔が差し挟まれるのか。零時半前まで読んだあたりで眠気が煙のように身内にくゆってくるのを感じたので、無理はせずに早めに床に就いた。
・作文
12:10 - 12:56 = 46分
20:42 - 21:20 = 38分
計: 1時間24分
・読書
13:18 - 13:57 = 39分
14:26 - 14:54 = 28分
15:20 - 17:20 = 30分
18:07 - 19:01 = 54分
21:28 - 22:26 = 58分
22:32 - 22:39 = 7分
22:47 - 24:22 = 1時間35分
計: 5時間11分
- 2016/6/23, Thu.
- 「わたしたちが塩の柱になるとき」: 2019-03-28「命あるものばかりを愛しすぎた冬をよろこべ灰に見惚れよ」
- fuzkue「読書日記(128)」: 3月13日(水)まで。
- 「記憶」: 99 - 107; 123 - 127
- 加藤二郎訳『ムージル著作集 第一巻 特性のない男Ⅰ』: 94 - 124
- 笠原敏彦「【ゼロからわかる】イギリス国民はなぜ「EU離脱」を決めたのか 露わになるグローバル化の「歪み」」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50639)
- 川上稔『境界線上のホライゾンⅣ(上)』: 78 - 128
・睡眠
1:50 - 11:05 = 9時間15分
・音楽