一一時二五分まで起きられず。端的に糞である。何とかベッドから抜け出して上階へ。母親は「K」の仕事。台所には前日の残り物ほか――鮭、大根の煮物、薩摩芋――が置かれてあり、フライパンにはこれも前日の残りのほうれん草をウインナーと炒めたものが入っていた。それぞれを電子レンジで温め、米をよそる。そして、賞味期限が昨日までの豆腐があったことを思い出したので、三個一パックのものを二つ、大皿に取り出し、それも電子レンジで二分半、加熱した。熱しているあいだに卓に就いて食事を始め、レンジが止まると皿を取り出し、鰹節を豆腐の上に掛けて食卓に持ってくるとさらに醤油を垂らした。新聞からは国際面の、「イスラエル 与党優勢 あす総選挙 外交成果アピール」の記事を読む。「「パレスチナの存在は我々を危険にさらす。(西岸は)イスラエルの主権下に置くべきだ」。ネタニヤフ首相は6日、地元メディアにこう述べ、首相を続投した場合、西岸のユダヤ人入植地を併合し、パレスチナの一部の村を撤去する意向を示した」とある。糞である。それから一面に戻って、「大阪ダブル選 維新制す 北海道知事は与党系」の記事も読んだ。そうしてものを食べ終えると抗鬱剤ほかを服用し、台所に食器を運んで皿の上に「JOY」を少量垂らす。それで網状の布で皿を擦って洗い流し、食器乾燥機に収めて機械を駆動させたのち、勝手口の扉を開けて、外に干されてあったゴミ箱をなかに取り込んだ。朝方降っていた雨は止んだようだが、いくらか寒々しいような曇天である。ゴミ箱にビニール袋をセットしておき、そうして下階に戻るとコンピューターを点けて、今日もFISHMANS『Oh! Mountain』を流して正午過ぎから日記を書きはじめた。ここまで綴って一二時半前となっている。
前日の記事をブログに投稿すると、Uさんへのメールを推敲した。一〇分か一五分かそこらで終えたと思う。それでメールを送信しておいたあと、一時前からMさんのブログを一日分。続いてfuzkueの「読書日記(129)」から二日分、といつものコースを辿る。その頃には音楽は、Antonio Sanchez『Three Times Three』に移っていたはずだ。最近は連日、FISHMANS『Oh! Mountain』からこの『Three Times Three』へという流れが出来上がってしまっているが、まったく飽きない。読み物を一旦終えたあとは、物凄く久しぶりのことだが、ベッドに移って腹筋運動を行った。毎日文を書かなければ文章は決してうまくならないように、筋肉トレーニングも毎日やらなければまったく身にならないのだが、どうにもやる気があまり起こらず、明日もやるかどうか定かでない。腹筋を終えると一度上階に上がって風呂を洗い、戻ってくると「記憶」記事の音読を行った。項目は一五〇番まで作成済みなのだが、記事をひらいたり引用を追加したりする時など動作が重くなってきたので、一番から一〇六番までを「記憶1」、一〇七番から一五〇番までを「記憶2」として記事を分けた。それで「記憶2」のほうから最新の一〇項目ほどを読んだあと、「記憶1」の大津透『天皇の歴史1』から引いた文も音読すると二時一五分ほどだった。
そこからは五時過ぎまでひたすら怠ける。堕落である。コンピューターをベッドに持ち込んで横たわっていたのだが、五時を回ると食事の支度をしにいくかというわけで身を起こして部屋を抜けた。コロッケを買ったと母親からメールが入っていたので、汁物とサラダでも作れば良いかと考えていた。それで冷蔵庫を覗くが、あまり大した材料もない。汁物はいつも通りで芸がないが、玉ねぎと卵の味噌汁にして、サラダはモヤシと大根でも合わせれば良かろうと判断して、まず汚れたフライパンを掃除するために水を汲んで火に掛けた。汁物用の小鍋ももう一方の焜炉に掛けておき、沸騰を待つあいだに食器乾燥機のなかを片付け、玉ねぎを切り分けた。玉ねぎは小鍋に放り込んでおき、フライパンの湯は零してもう一度水を汲んで沸騰を待つ。そのあいだに笊にモヤシをあけて水洗いし、さらに冷凍庫を覗くとブロッコリーもあったので、モヤシの上からそれも重ねた。湯が沸騰するとフライパンにそれらを突っ込み、小鍋の方には粉の出汁と味の素を振っておき、しばらくすると味噌を投入した。それから溶いておいた卵も垂らして汁物は完成、フライパンの方も茹でこぼして笊に上げ、食器乾燥機のなかに置いておく。大根のスライスも合間に拵えておいたので、簡単だがこれで支度は終わり、おかずは母親が買ってくるコロッケや賞味期限の迫っている豆腐を食えば良いだろうとの見通しだった。
居間のカーテンを閉めておき、下階に戻ってくるとAntonio Sanchez『Migration』をバックに日記を綴って六時が目前となっている。
この日のその後は食事と入浴を済ませたあと、ふたたびひたすらコンピューター前でだらだらしただけなので、特別に書き記すことはない。零時ちょうどからベッドに移って加藤二郎訳『ムージル著作集 第一巻 特性のない男Ⅰ』を読みはじめた。「平行運動」の活動は一定の進展を見せて、各委員会に下から上ってきた国民の声が吸収されているが、それらを指導するための中心理念が未だ発見されていない。活動の旗振り役であるラインスドルフ伯爵の考えでは、「国民の中心から湧き上る示威運動」を上から善導し、「純化」しなくてはならないのだ。一方ディオティーマによれば、「平行運動」の目的は様々な理念のうちで最も偉大かつ重要な理念を実現することであり、それは彼女の言葉で換言すれば、「世界オーストリアの年」を具現化することだ。つまりは「オーストリア国民を世界の諸国民の手本として示す」ことであり、そのためにはヨーロッパ精神がオーストリアに真の故郷を持つということを証明しなければならない。このサロンの女主人の「大胆不敵」な発想をラインスドルフ伯爵は、「慎重に! 慎重に!」と諌め、その「世界の年」に具体的に何が成されるべきかを問うのだが、ディオティーマもこの点については解答を見出せていない。そこで、「本当にすぐれた人たち、つまり詩人や思想家の一団」をサロン招待して彼らの提案を訊くことになるのだが、この「平行運動」という動向は、抽象的な題目は立派でもその中核に一貫してこのような曖昧さが付き纏っているようだ。
二九一頁にはモースブルッガーが体験する統合失調症的な――そしておそらく、ムージルの考えのなかではいくらか神秘主義的な経験と重ね合わされた――症状が記述されている。彼は様々な音声、音楽やざわめき、雷鳴、笑い声、叫び声などを耳にするのだが、それは四方から、壁の中から、また彼の体の中からも聞こえてくる。その声は彼に話しかけ、彼の悪口を言ったりする。また、「彼が何かを考えると、その何かを彼が思いつくより先に、その声の方がそれをしゃべり出したり、彼が考え出そうとしていることとは反対のことを意地悪くいったり」するのだが、これは明らかに――かつては「精神分裂病」と呼び習わされていた――統合失調症の症候だろう。こうした幻覚が現れているあいだ、彼はその声に注意を払うのではなくて、ただ「考えること」を行ったというのだが、そこで実際考えられているのは、ムージルの真面目で晦渋な文体に不似合いな突飛で馬鹿げた内容であり、端的に言って滑稽な思考である。
(……)モースブルッガーは、いまや首を深く垂れて、指の間の寝台の木を見つめていた。「当地では、皆の衆は木ねずみを木ねこといっている」と、彼は思いついていった。「だが、一度でも誰かに、真顔で『木ねこ』といわせてみたらどうだろう! そしたら、演習で空砲をプスプス屁のように射ってる最中に、実砲を一発ぶっ放したときみたいに、みんなはびっくらして見ることだろうて。ヘッセンではそのくせ、木ねずみを木ぎつねっていっている。広く歩いてきたものには、ようくわかっていることだて」。さて、精神病医らがモースブルッガーに木ねずみの描いてある絵を見せたとき、彼らは驚きかつ好奇の色を見せたのである。彼の答えはこうだった。「これはたぶんきつねか、それともおそらくうさぎだね。ねこかもしれないし、またはそれに似たもんだろう」と。彼らはそれから、毎度のことながら口早に彼に質問した。「一四たす一四では、いくつです?」。すると彼は慎重にこう答えた。「さよう、おおよそ二八から四〇までだね」と。この「おおよそ」が彼らに難題をもちかけたが、モースブルッガーはそれにほくそ笑んだ。なぜなら、まったく簡単な問題だからだ。一四歩歩いてさらに一四歩先へ進めば、二八歩になることぐらい、彼も知っている。だが、そこで立ちどまらなければいけないとは、誰もいっていないのだ?!(……)
(加藤二郎訳『ムージル著作集 第一巻 特性のない男Ⅰ』松籟社、一九九二年、292~293)
一時一五分ほどまで読書を続けて、そうして消灯した。
・作文
12:08 - 12:25 = 17分
17:38 - 17:54 = 16分
計: 33分
・読書
12:57 - 13:18 = 21分
13:37 - 14:14 = 37分
18:18 - 18:52 = 34分
19:27 - 20:16 = 49分
24:00 - 25:13 = 1時間13分
計: 3時間34分
- 「わたしたちが塩の柱になるとき」: 2019-04-04「便箋に何も書かない鶴の折りかたも忘れたただの紙切れ」
- fuzkue「読書日記(129)」: 3月21日(木)まで。
- 「記憶2」: 139 - 150
- 「記憶1」: 40 - 46
- 加藤二郎訳『ムージル著作集 第一巻 特性のない男Ⅰ』: 274 - 306
・睡眠
0:30 - 11:25 = 10時間55分
・音楽
- FISHMANS『Oh! Mountain』
- Antonio Sanchez『Three Times Three』
- Antonio Sanchez『Migration』
- Avishai Cohen『Duende』
- Avishai Cohen『Seven Seas』