2019/5/21, Tue.

 一二時起床。ベッドを抜け出し上階へ。母親は着物リメイクの仕事で不在。台所に入ると稲荷寿司と温野菜が用意されていたので、温野菜のスチーム・ケースを電子レンジに突っ込み、二分間加熱するそのあいだに卓に就いて稲荷寿司を食う。電子レンジの音が鳴ると席を立って温野菜を取ってきて、そちらも醤油をちょっと垂らして食べる。外は神が号泣しているかのような土砂降りである。そのなかを出勤するのは難事なので、夕刻までには止んでくれることを期待する。食べ終えると食器を洗い、抗鬱剤ほかを飲んでから下階に戻った。自室に入るとコンピューターを起動させ、インターネットをちょっと回ったあと、この日の記事を作成し、一二時半ちょうどから日記を書きはじめた。まだ一九日の記事は半分も書いていないし、昨日、二〇日の記事も終わっていない。なかなか骨の折れる仕事である。
 それからまず前日、二〇日の記事を仕上げると、二時四五分まで長いこと掛かって一九日の記事を書き終えることが出来た。身内に疲労感が滲んでいた。それでベッドに移って枕とクッションに凭れ掛かり、身体に布団を掛けながらジェイムズ・ジョイス柳瀬尚紀訳『ダブリナーズ』を読みはじめたが、じきに例によって目を閉じたい心地になり、本を置いて瞑目し、頭を枕の横に置いて身体を少々丸めた。四時頃、母親が帰宅した音で目を覚まし、引き続きいくらか本を読み進めたあと、四時二〇分になって中断して上階に行った。母親はソファに座っていた。テーブルの上には彼女が買ってきてくれた薄皮クリームパン(五個入り)があったので、それを頂くことにした。五個入っているうちの三つを頂いたのち、さらに豆腐でも食べようかと冷蔵庫を覗くと、フライパンが入っており、なかに前夜の残り物である玉ねぎや豆腐や豚肉の炒め物があったので、それを取り出して皿にすべて盛ってしまい、電子レンジに突っ込むとともに米を少量よそった。卓に就いて新聞をめくり、欧州議会選で右派が伸長の予想との記事を読みながら、炒め物をおかずにして白米を食べた。そうして食器を洗っておくと、さらに浴室に入って風呂を洗った。それから居間に出てきて、椅子の背に吊るしてあった白いワイシャツを取り、身につけながら仏間に入って灰色の靴下を履いた。そうして階段を下り、自室に戻るとぴちぴちのきついスラックスを履き、地味な水色のネクタイを締めて黒のベストを羽織る。ネクタイも新しいものが欲しいものだ。立川のLUMINEのなかにある、tk TAKEO KIKUCHIの店舗に、赤の格好良いものがあったような覚えがある――結構値は張ったはずだが。ワイシャツも新品をそのうちに買わねばならない。着替えたあとは歯磨きをしながらベッドの上で『ダブリナーズ』をまた少しだけ読み進め、それからコンピューターに寄ってここまで日記を書き足した。雨は止んでいた。夜になってまた降らないことを祈る。
 日記を書いたあと、クラッチバッグを持って上階に行った。ソファに座っていた母親がもう行くのと訊いてきたので、肯定し、便所へ行って腹を軽くした。出てくると、財布と携帯の入ったバッグを持って出発、玄関を出ると中空を見上げて、片手を上に広げて雨が落ちてこないかどうか確かめた。迷ったけれど、傘は持たないままに出発した。
 昨日、出勤のために家を出て直後にO.Sさんと話したことを書き忘れていたので、ここに記しておく。家を出て階段を下ると、我が家の敷地の端っこに何やら用紙が落ちていて、見れば宅配の受領用紙のようなもので、そこにOさんの名が記されていたのだ。彼女は我が家の向かいの木造家屋を使って、何やらよくわからない商売をやっている。それで家の戸口に寄って引き戸をとんとんと叩き、ごめんくださいと言って引き開けた。Oさんが出てきたので、こんにちはと挨拶し、これが落ちていたんですけれどと言って用紙を差し出した。受け取ってもらったあと、彼女は、今から、と訊くので、お蔭様で職場に復帰できたのだと報告した。こちらの灰色のベスト姿を見た彼女は、凄く決まっていると褒めてくれた。ありがとうございますと少々笑いながら返し、Sくんはと訊くと、彼は高校で和太鼓部に入って忙しいのだと言う。それでも勉強には不安を抱えているようで、こちらと一度会って話をしたいと言っているとのことだったので、こちらとしてもお会いしたいと伝えておいてくださいと頼んだ。そうして別れて、出勤路を辿ったのが昨日の話である。今日のことに話を戻すと、坂道を上って行って三ツ辻には、今日は八百屋の姿はなかった。無人のなかを通り過ぎ、手近の家の前に咲いている大輪の、青味がかった紫色の濃い花を横目に行く。
 街道に出てすぐに渡ると、目の前に躑躅の茂みがある。花はもう大方萎れて、無数に吊るされた虫の死骸のようにして力なく垂れ下がっており、その足もとにも赤紫色が多数散って伏していた。車の走行音の隙間に雀やら何やらの囀りが紛れずに挟まり聞こえるなかを進んでいく。空は一面石灰色の澱んだ曇りで、東南の果てには黒っぽい雲が低く垂れ込めていた。老人ホームではこれから早めの夕食だろうか、テーブルの周囲に老人たちが集まっており、なかには車椅子に小さな身体を沈めるように預けている老婆もいる。大きな緑葉の木が立った角を曲がって裏通りに入った。
 湿り気をはらんだ風が正面から流れてくるが、服の内はやはりいくらか蒸していた。路面には濡れ痕が残っており、じめじめとした空気が立ち昇ってくるものの、通り過ぎる家々の庭木の葉の表面には露はもう見られない。鶯の音楽的な、明確な音程をはらんだ狂い鳴きの唄が今日も道に降った。
 犬の散歩とすれ違って歩いて行くと、白猫が家の前に佇んでいた。近寄ってしゃがみこみ、手を差し出して顔のもとに持っていき、鼻面を押し付けられるに任せたり、身体を撫でたりしたが、この日の猫は寝転がって腹を見せたりしてくれず、ちょっと戯れたあと、すぐに車の下に入りこんでしまったので、名残惜しく離れて先を行った。
 職場に着くと準備。今日の相手は(……)さん(中一・英語)、(……)さん(高三・英語)である。準備時間で(……)さんがやっているチェックテストのテキストや、問題集の当該部分を確認しておいた。知覚動詞や使役動詞を使ったSVCOの形である。そうして六時から授業。二人が相手だったので全体にまあ結構詰めた指導を出来たのではないか。(……)さんの試験範囲は、I am / You areの平叙文・疑問文・否定文。一番最初の簡単なところであるし、文法は問題ないだろう。単語も意味はわかるのだが、ただ書く方はやや苦手なようで、スペルがわからないものが多くあったので、それらを練習してもらい、ノートにメモさせた。チェックテストはレッスン一のまとめの部分で、ちょっと問題数が多かったが、勉強させずとも半分程度は取ってくれた。今のうちから単語の覚え方、その練習の仕方を押さえておかないと、この先苦しいことになるだろう。それで、何度か練習させたあとに必ず答えを隠して書けるかどうか確認するという方式を取り、授業の最後にもノートにメモした単語をもう一度繰り返し練習させてから確認、と繰り返し当たった。(……)さんは問題集の七三頁を扱ったのみで終わってしまったが、結構色々ノートに書いてくれたので良いだろう。気になったのはbeginやwantの意味を忘れていたことで、高三でそれを忘れていては非常にまずい。本当に忘れていたのだろうか? さすがにそのあたりは覚えているような気がするのだが。知覚動詞・使役動詞の使い方はもう少し繰り返さないとおそらく身につかないだろう。そういうわけで宿題は、前回の宿題だった頁も含めて今日やった箇所の間違えた問題をもう一度と、復習として問題集の一番最初の問題頁を加えて出した。毎回一頁か二頁ずつ、宿題で復習していければ良いのではないか。
 そうして授業を終え、片付けや室長への報告も済ませて退勤。一時限のみの楽な仕事である。次の勤務日はまだ決まっていないが、室長の口ぶりでは来週までないような雰囲気だった。しかし実際はどうだかわからない、また突然勤務を頼まれることもあるかもしれない。職場を出ると、ほんの微かに雨が散っていた。駅舎に入って改札を抜け、涼風の流れるなかホームのベンチに腰掛けて、携帯を取り出して行きの道中のことを記していった。毎回の勤務後はこのようにして電車での帰路を取って、待ち時間を携帯での日記の作成に充てれば良いのではないか。そうして電車がやって来ると乗りこみ、席に座って引き続き携帯をかちかちと操作する。猫と会ったあたりまで書いて、最寄り駅に到着した。
 駅舎を抜けて坂道に入った。あたりには竹の葉っぱがたくさん散って重なり合っている。木の下の路面はまだ水気がかなり残っていて、じめじめとしており、街灯の光を受けて白く硬質に光っている。平らな道に出ると、南の空に目をやった。薄墨色に澱んで偏差のほとんど見分けられない空のなか、市営住宅の棟の上端、その際が仄かに明るんでいるのは、その先にある川向こうの町の明かりが空に反映しているのかもしれない。
 帰路を辿って自宅に到着し、玄関扉の鍵を開けてなかに入った。居間の母親にただいまと挨拶し――父親ももう帰ってきていて風呂に入っていた――、下階に下りて自室に入り、ベストを脱ぎながらコンピューターを点ける。ネクタイを外し、ワイシャツとスラックスも脱いでからSkypeを確認すると、Tさんが新しい人を連れてきていた。加えて、Yさんがこちらに呼びかけて、今日は何時から通話をするのか決めておいた方が良いと思うと言っていたので、一一時くらいからでいいんじゃないですかと適当に答えておき、丸めたワイシャツを持って上階に行った。洗面所の扉を開けて、籠のなかにワイシャツを放り込んでおき、そうして台所でおじや――玉ねぎや菜っ葉や鱈子スパゲッティの素が混ぜられたもの――を丼にたくさんよそって電子レンジで温めた。加熱されているあいだに、アスパラガスとコーンとハムの炒め物も皿によそり、さらに小松菜も小皿に盛って卓に運んだ。温まったおじやを盛ってきて、炒め物も同様に電子レンジで加熱しているあいだにものを食べはじめた。テレビは歌謡ショー。そしてその後、ニュース。それらにぼんやりと目を向けながらものを食べ、食べたあとも何となく物足りない感じがしたので、木綿豆腐を冷蔵庫から取り出して電子レンジで加熱した。それに鰹節と麺つゆを掛けて食い、さらにヨーグルトも食べて食事を終え、食器を洗った。そうして入浴。しばらく浸かってから出てくると下階に戻って、Miles Davis『Kind Of Blue』をお供に日記を書きはじめた。音楽はその後、『伊福部 昭の芸術 10 凛 - 生誕100年記念・初期傑作集』に移して打鍵を続け、現在一〇時二〇分が目前となっている。
 それから読書、ジェイムズ・ジョイス柳瀬尚紀訳『ダブリナーズ』。ベッドに乗って布団を身体に掛けつつ読み進めて、約束の一一時を越えてからもしばらく読んで、「委員会室の蔦の日」まで読み終わった。その時点で一一時一五分付近だった。コンピューターに近寄り、そろそろ始めましょうかとSkype上で呟くと、即座に着信があった。受けるとYさんしか通話相手はいなかったが、まもなくTさんと、彼が連れてきた新しいメンバーであるMR.Hさんが参加してきた。Tさんはチャット、MRさんは音声での通話だった。Fです、よろしくどうぞと挨拶し、相手のことをいくらか訊いた。彼女はTさんの同級生でクラスメイトであり、従って高校二年生なのだが、全国高校生何とかかんとかみたいな大会(?)で現代詩の賞を受賞したことがあるのだと言う。小説の方も、中学一年生、二年生の時分に書いたものが賞を受けたということで、そんなに早くから書いているんですねとこちらは受けた。好きな作家は、江國香織川上弘美川上未映子村上春樹江國香織という名前を聞いて、Bさんという方が、このあいだ江國香織の話をしていましたと紹介した。彼女は兎を飼っていたのだが、その可愛らしい兎が亡くなってしまったその一か月後に、江國香織の『デューク』という作品を国語の授業で読み、この作はペットが亡くなってしまう話だったので自分の境遇と重ね合わせてボロ泣きし、クラスメイトに引かれたという話だ。
 こちらとYさんも自己紹介した。Yさんは例によって、映画のことをどちらかと言えば話すというようなことを言っていた。こちらは、どちらかと言えば海外文学を読むと言い、どんなものかと訊かれたのには、ガルシア=マルケスとか、アイコンにもしているヴァージニア・ウルフとか、あとはマイナーだがローベルト・ヴァルザーというスイス出身の作家とか、と紹介した。ガルシア=マルケスの『族長の秋』は特に好きで、今までに七回読んでいる、それで先日読み返した時からこのグループでもその話ばかりしているので、何だか自分は『族長の秋』の人みたいな扱いになっていると笑って言った。日本の作家では梶井基次郎が好きで、もう高齢だが今も現役で書いている作家のなかでは古井由吉が好きだと紹介した。MRさんはそれを受けて、古井由吉の作品は今家のトイレにあると言った。挙げる名前がいかにも純文学って感じですねとも彼女は言った。
 MDさんが一瞬参加して、MRさんと挨拶を交わしてからすぐに退出された。そのうちにYさんが、室内の書棚の写真や、標本の写真などを撮ってアップしはじめたので、Yさんはこういう人です、何かいきなり写真を撮って上げるみたいな、と紹介した。音楽の話も少々した。Tさんは母君の影響でクラシックを聞くと言う。特に好きなのはバッハあたりのバロック音楽などだと言う。ルネサンス音楽にも嵌まっていると言うので、クレマン・ジャヌカンの"鳥の唄"という合唱曲があって、とこちらはT田経由で知った曲を紹介し、YOUTUBEのリンクを貼っておいた。
 その後、MRさんもチャットに移行した。その頃には、何故かYさんがこちらに対して、金原ひとみ『アッシュベイビー』の感想を述べ、要約して紹介するように求めてきて、それに応じてこちらはブログに書いたようなことを適当に喋ったのだったが、それでこちらの一人喋りみたいになってしまった(Bさんなどは、「Fさんのニコ生だ」などと言っていた。彼女も最初は音声通話をしていたのだが、たびたび音声が籠って間延びし、彼女のいる空間だけ時間が遅れたようになるので――それがまるで水のなかから通話しているかのように聞こえるので、この現象が発生するたびにこちらは「水中、水中」と言って嗜める――チャットになっていたのだ)。性描写の乾いた即物性・散文性が最初に印象的だったこと、「傷」を抉るという行為が性交の代理、と言うよりはむしろ真の性交のように描かれており、象徴的な性行為と実際の性行為の序列が逆転しているように思われたこと、などを述べて、過激な小説なので、高校生くらいの方が読むと刺激は強いかもしれませんねと締め括った。それに対してBさんは、サドは? と訊いてきたのだが、サドは普通は中高生は読まないでしょう……とこちらが受けると、彼女は、チャット上で「え?」を連発した。だって裁判沙汰にもなったような作品ですよとこちらは言った。彼女は中学生の時分からサドを読んでいたというつわもので、サドは教養小説、言わば教科書であると言い放つのだ。
 それで、Yさんもチャットになってしまったので、こちらが皆の発言を拾って一人喋りをしているところに、救い主であるAさんがやってきてくれたので、何とかニコ生状態が解除された。こちらはMRさんがいたので、Aさんに自己紹介をするように求め、さらに最近のおすすめの講義は、と訊くと、彼女は最近では文化人類学なども興味を持っていると言った。文化人類学と言って、こちらはレヴィ=ストロースくらいしか名前を知らないしほとんど読んだこともない。それでもレヴィ=ストロースだったら、『悲しき熱帯』を読んだと言い、するとAさんが是非プレゼンを、と応じるので、もう随分前に読んだものだからプレゼンなどは出来ないが、印象に残っている部分として、レヴィ=ストロースがブラジル行きの船の上で甲板から空の雲の生成変化する様子をじっと観察し続けており、その描写が八頁くらいに渡って延々と続くという箇所を挙げた。レヴィ=ストロースという人間は、自分で小説や戯曲も書いていたようで、文学的な素養も相当にある人物なのだ。
 Tさんは一時前に眠ると言って去って行った。それからどういう経路を辿ったのだったか、英語や翻訳の話になって、こちらは以前、二〇一四年のことだが、Virginia WoolfのKew Gardensという短編を訳したと言うと、Aさんが是非読みたいと言うのでURLを貼りつけた。彼女はいつもながらの素早さで即座に読むと、めちゃくちゃ好きですと言ってくれた。そのAさんも、こちらが勧めていたのに応じて、最近ブログを始めたと言う。これでIさん、Yさん、Aさんの三人が新しくブログを始めたわけで、良い傾向である。いいですか、いつも言っていますけど、とにかく続けたやつが勝ちですからね、一日一行であれ、とにかく続けていればそれでいいんですとこちらはいつもながらの論を振りかざし、こちらの勧めで三人が文章を書きはじめたことについて、何だか僕が黒幕みたいですねと笑った。
 一時二〇分頃にMRさんも去った。かくして、こちら、Yさん、Aさん、Bさんのいつもの面子が残ったわけである。それからも二時二〇分頃まで通話は続いたが、何を話したのかはよく覚えていないので記述は省略しよう。通話を終えるといつもどおりチャット上で、ありがとうございましたと礼を述べておき、コンピューターを閉じると、本を読もうかどうしようかちょっと迷ったが、結構眠気が満ちていたのでこれなら眠れるだろうと明かりを落として就床した。


・作文
 12:30 - 14:45 = 2時間15分
 16:54 - 17:03 = 9分
 21:32 - 22:17 = 45分
 計: 3時間9分

・読書
 14:55 - 16:20 = 1時間25分
 22:18 - 23:16 = 58分
 計: 2時間23分

・睡眠
 1:45 - 12:00 = 10時間15分

・音楽