2020/2/25, Tue.

 一九一九年七月にドイツが不本意ながら調印したヴェルサイユ条約は、たいへんな衝撃をもたらした。停戦時、ドイツ人の多くは、アメリカ大統領ウッドロー・ウィルソンが一九一八年秋に明言していた気高い講和原則から生まれる平和を無邪気に期待していたため、条約は耐えがたいほど厳しいものに思われたのだ。西部(アルザス=ロレーヌとオイペン=マルメディ)、北部(北シュレースヴィヒ)、そしてもっとも重要な東部(ポーゼン、西プロイセン、上シュレジェンの一部)の領土を失ったこと、支払いに何十年もかかる莫大な賠償金を課せられたこと、そして「戦争責任条項」によって戦争勃発の責をドイツ政府が負わされたことは、とても容認しえず不公平としか言いようがなかった。
 ヴェルサイユ条約でドイツが割譲した経済的資源なしでは、国の未来が暗いことは誰の目にも明らかである。これにより、一九二〇年代のドイツの窮境を、世界大戦での敗北による物質的・社会的損失のせいではなく、弱体化した国に連合国が押しつけた不公平な講和条件のせいにする傾向が強まった。右派のみならずあらゆる政治的立場の人々がヴェルサイユ条約を糾弾し、実際、政治的対立だらけのヴァイマル共和国で、おそらく唯一一致していたのが、ヴェルサイユの「絶対的命令」に対する敵意だった。
 (リチャード・ベッセル/大山晶訳『ナチスの戦争 1918-1949 民族と人種の戦い』中公新書、二〇一五年、17)



  • 一〇時にアラームが鳴り、夢の世界から強制的につまみ出された。夢の内では何か音楽を聞いていて、それが非常に素晴らしいものだった。夢のなかで耳にする音楽というものは、何故だかわからないがいつも完璧だ。この時にも、この音楽をそのまま現実世界に移して音にしたり楽譜に仕立てたりできれば、俺は優れた音楽家になれるのになと思った。
  • 一〇時の時点で、天気は既に褪せて古びたような白さの曇天だったと思う。最終的な起床は一二時二五分となった。意識が曲がりなりにも定かな形を成して固まり、輪郭線を越えて溶け出していかないようになる境の瞬間というものが確かにある。結局はそれがあちらから訪れるのを待つほかはなく、睡眠など所詮は人間の努力によってどうこう制御できるものではないのだ。それは所与である。
  • 新聞。三月五日から予定されていた中国全人代の延期が決定されたと言う。全国人民代表大会は一九九八年以来ずっと、三月五日から一〇日間ほどの日程でひらかれてきたらしい。それを伝える記事の横には記者の小さな評文が載せられており、武漢市当局が初期対応において正確な情報公開をしなかったことについて批判的な見方が示されていた。武漢市長は、地方当局は中央政府の指令がなければ明確な行動は取れない、というような言い分でもって釈明したと言うのだが、記者によれば、この点に強権的な独裁政治である習近平政権の「体制病」が見えると言う。つまり、市当局は情報を封じこめて病気の蔓延が拡大することと、無闇に情報公開をして騒動を招き中央政府の不興を買うことのあいだでリスクを比較考量し、その結果前者を選んだのだろうということだ。そのような推測的な分析に基づいて、中国は自国及び国際社会の「真の利益」を考えるならば、そうした窮屈な「体制病」を改めなければならない、と記事は結論づけられていた。
  • 日記がとにかく溜まりすぎていてやばいのだが、そのためにかえって気力が湧かないと言うか、ここまで来ると怠けようが何だろうが大した違いではないという気分になって、作文に取りかかるための気概のようなものが発生しない。
  • 夕食後に緑茶を用意する際に、風呂に入ろうとしている寝間着姿の父親に、祭りの衣装決めるようでしょ、今月いっぱいとか言ってたじゃん、と向けると肯定があり、平仮名にしようかと思って、と言う。袢纏の前の袷の部分にあしらう名前の文字のことである。平仮名の白抜きと言うので、白抜きに関しては異存ないが、こちらには平仮名よりも漢字の方が何となく良いのではないかという気がしたため、緑茶を注ぎながらマジかよとひとまず受けておいたものの、それ以上強い反対は表明しなかった。
  • 九時五分あたりから風呂に浸かった。ほとんど瞑想じみて湯のなかでひたすらに静止し、自己の身体に生じる微細な感覚を観察し続けながら精神を鎮める。結局自分は、物事を、この世界の様相をもっとよく見聞きし、感じ取りたいというその一念でもって今まで読み書きを続けてきたのではないかという気がする。四〇分があっという間に流れ過ぎた。


・作文
 16:08 - 16:38 = 30分(25日)
 16:39 - 17:06 = 27分(24日)
 17:25 - 18:30 = 1時間5分(15日)
 19:20 - 20:10 = 50分(15日)
 21:12 - 21:56 = 44分(15日)
 24:47 - 26:02 = 1時間15分(15日)
 26:11 - 27:32 = 1時間21分(22日)
 計: 6時間12分

・読書
 13:36 - 14:42 = 1時間6分(日記; ブログ)

  • 2019/2/25, Mon.
  • 2014/6/27, Fri.
  • fuzkue「読書日記(169)」: 12月24日(火)
  • 「わたしたちが塩の柱になるとき」: 2020-02-07「宿主となってはじめて目にみえる生態系のここは片隅」; 2020-02-08「潮風を浴びるあなたのほつれ毛が錆を浮かせて百年過ぎる」

・睡眠
 4:00 - 12:25 = 8時間25分

・音楽

  • dbClifford『Recyclable』
  • Jose James『Yesterday I Had The Blues - The Music Of Billie Holiday