2020/3/9, Mon.

 国内に対抗勢力がなく、国外での名声が高まり、再軍備も軌道に乗った一九三七年一一月五日、ヒトラーは自らの戦争計画を明確に示した。国防大臣フォン・ブロムベルク、陸軍最高司令官ヴェルナー・フライヘル・フォン・フリッチュ、海軍最高司令官エーリヒ・レーダー、空軍最高司令官ヘルマン・ゲーリング、そして外務大臣フォン・ノイラート、さらにナチ指導者の議事録(有名なホスバッハ覚書)を作成するフリードリヒ・ホスバッハ大佐による会議の席上でのことだ。
 ヒトラーはここでも遠大なイデオロギー構想から話を始めている。「ドイツの政治目的は、人民の保護と維持、そして拡大である。ゆえに、これは土地の問題なのだ」。既存の領土内での自給自足は不可能だ、と彼は主張している。ヒトラーによれば、「ドイツの未来は、新たな土地を得られるかどうかにかかっている」のだった。それから実際にどうすべきかという結論が述べられた。ゆえに遅くとも一九四三年から四五年にはチェコスロヴァキアオーストリアを攻撃する必要がある、と。ホスバッハ覚書は二年後にポーランド侵攻で始まる世界大戦の青写真ではなかったが(たとえば、ロシアについては言及されていない)、人種主義イデオロギーに鼓舞された戦争をヨーロッパで仕掛けるというヒトラーの意図を明確に示すものだった。
 (リチャード・ベッセル/大山晶訳『ナチスの戦争 1918-1949 民族と人種の戦い』中公新書、二〇一五年、94~95)



  • 夕食として餃子を焼き、舞茸と葱の味噌汁を拵える。
  • ロラン・バルト/藤本治訳『ミシュレ』を読了する。訳文が日本語としてあまりうまくこなれておらず、いくらか古めかしく、全体にややいびつで綺麗に整っていない印象。翻訳で損をしている書物のように思われるが、内容としても、ミシュレの著作群に観察されるテーマ系の網の目を取り上げて分析し、その意味体系の形を考察したようなエッセイで、広く通有する一般性を持った理論的著作ではないこともあって、興味を惹かれて書抜きたいと感じる箇所もそこまで見つからなかった。ただそれはやはり、繰り返しになるが翻訳の質に邪魔されている面は大いにあると推測され、バルトの文章が本来持っているはずのエレガンスや滑らかな流暢さのようなものは多分かなり損なわれてしまっているのではないか。
  • ミシュレ』を読み終えたあとは、ジョルジョ・アガンベン/上村忠男・廣石正和訳『アウシュヴィッツの残りのもの――アルシーヴと証人』を読みだした。今日の読書はすべて椅子に座った状態ではなくて、ベッドに寝転がった形で行っている。臥位だとどうしても眠くなってしまうからといつからか書見は座位でこなすようになり、実際今日の午後も読書中に一度意識を失った時間があったのだが、横たわっていた方がやはり当然ながら肉体としては楽である。