2020/3/20, Fri.

 フランツ・ハルダーが日記の余白に記したように、ヒトラーソ連攻撃が、「西方での戦闘とはまったく違った戦闘になる」と明言している。整復された住民は国際法の適用を受けることなく、容赦なく扱われることになった。数週間後、民間人に対する国防軍兵士の犯罪は告訴されるという規定は明確にはずされ、大隊長はすべての村々に対し必要に応じ「集団的かつ暴力的方法」をとることを要求された。部隊長から異議はまったく上がらないどころか、一九一八年の軍崩壊と革命の記憶から生じた恨みと根深い偏見のせいで、東方の敵「ユダヤボルシェヴィキ」と情け容赦なく戦えという要求を、彼らは喜んで受け入れる気になっていた。その影響は、国防軍司令官が発したバルバロッサ作戦の命令からも窺える。一九四一年五月初頭、エーリヒ・ヘプナー将軍は作戦をいかに遂行するかについて、麾下の戦車隊に次のような指示を与えた。

 ロシアとの戦争は、ドイツ国民が存続するために欠くことのできない闘争だ。昔から続くスラヴ人との闘争であると同時に、押し寄せるモスクワやアジアの人間からヨーロッパ文化を防衛し、ユダヤ・ボルシェヴィズムを撃退するための戦いでもある。この闘争の目標は現在のロシアを打倒することにあり、ゆえに前例のない厳しさをもって遂行しなければならない。いかなる戦闘も、その計画と遂行は、敵を情け容赦なく絶滅させるべく鉄の意志によって導かれねばならない。とりわけ現在のロシア・ボルシェヴィキ体制の代表者への慈悲は一切無用だ。

 (リチャード・ベッセル/大山晶訳『ナチスの戦争 1918-1949 民族と人種の戦い』中公新書、二〇一五年、150~151)



  • 一時半まで寝耽った。出勤するまでにもう少し余裕が欲しいところだ。「記憶」記事の音読を昼間のうちに済ませてしまいたかったのだが、一〇分ほどしか時間を取れなかった。
  • 坂道の入口に掛かると梢の天辺を風が遊んで葉擦れが流れ落ち、枝葉は水底で海流に触れられた海藻のように揺らいでいる。坂を上っているうちに風はこちらの高さにも降りてきて、周囲の樹々が蠢動して空間全体が震えざわめき立ち騒ぐなか、この身も幅広く分厚い空気の層に包まれ、すっぽり囚われた。
  • 表に出るまでの道行きでも風が間断を置きながらもよく走り、そのなかに長く浸されればさすがに涼気が強いが、それでも寒さに高まるほどでない。路面に掛かる影絵のなかで首の辺りが不格好に横に広がっているのは、伸びた襟足が空気の流れに乱されるためだ。街道途中の小公園から子供の燥ぎ声が飛んできたので目を振れば、二、三人が楽しそうに、曲線の軌跡を描きながら遊具の周りを駆け回っていた。敷地の隅では、濃縮されたような強いピンク色の梅が満開である。
  • 裏路地に入れば途端に風が収まって、静けさが浮遊して辺りに行き渡る。時刻は四時前だったが陽射しもまだ道の上を撫でており、肩に宿った温もりは暑いくらいで、服の内の肌がいくらか湿りを帯びた。風は控え目に落着き駆けるほどでないが微風はあって、線路の向こうの林からは吐息めいてささやかな響きが漏れ出し、見上げればその樹々の梢の緑と雲を許さず澄んだ青空とがくっきりと対照され、鮮やかに爽やかな取り合わせである。白木蓮は花の底にかすかな黄色を溜めていた。
  • (……)寺の枝垂れ桜が淡紅色を仄かに纏いはじめていた。
  • 労働。一コマ目は(……)くん(新中二・国語)、(……)くん(新中二・英語)に、(……)くん(新中二・数学)。二コマ目は(……)くん(英語)及び(……)くん(英語)の二人は教科は変わりながらも引き続き担当し、もう一人は(……)くん(新高一・英語)である。すでに三月三〇日を迎えているので授業の内容はもはや覚えていないが、確か(……)くんとはこの日が初顔合わせだったのではないか。結構優秀そうな感触だった。
  • 片付けをしている途中、(……)先生が今日までだということであちらから挨拶に来てくれた。それから(……)とちょっと話したあと、菓子を貰って帰る。リーフパイで、(……)が持ってきてくれたらしいが、彼も勤務を正式に辞めたのかどうなのか判然としない。
  • 最寄り駅を抜けると、街道沿いを中年らしき男たちが何人か賑やかに話しながらやって来て、その声の調子や大きさから、どうも酔っ払っているようだなと聞いた。時刻は八時過ぎで、このくらいになるとさすがに夜気が少々肌に寒い。酔っ払いたちの声を背後に置きながら東に向かい、肉屋の横から坂を下って、樹のなかを抜けて見上げると、空は明瞭でオリオン座を初め星が清かに灯っていたが、月はなくて青さはさほど感じられない。
  • 帰宅して母親に親父は、と訊くと、「(……)」にいるらしいと言う。飲み屋のことである。それで、ちょうどその辺りに何かうるせえ酔っ払いがいたよと報告すると、そのなかにいたんじゃないと母親は笑って受けた。洗面所で手を洗ったり台所で水を飲んだりしているうちに実際父親は帰ってきて、居間に入ってきたところにこちらの目撃情報を母親が伝えると、飲酒のために御機嫌らしい父親は大きく笑い、それは我々だなと言った。
  • 肉体がやたらと疲労していた。脇腹の奥など何故かちょっと痛いようだったし、肩も随分とこごっていた。それで食事の前に読書をしながら、ゴルフボールをぐりぐりと踏んで足裏をほぐす。こうすると多分血流が良くなるのだろう、身体全体が軽くなって肉体感覚が整うのだ。
  • 食事はミートボールと小松菜の炒め物などだった。ほか、小さな豆腐を食べる。パッケージに大山がどうとか書かれてあったと思うが、鳥取県で作られた豆腐だったのだろうか。大山と言えば志賀直哉の『暗夜行路』に登場する山だったはずだ。食事中、いつものことだが父親がテレビを見ながら独り言を呟きうんうん反応しているのがまったく鬱陶しい。ニュースに目を向けていると、オウム真理教団の起こした地下鉄サリン事件から今日で二五年だと伝えられた。朝刊の社会面にも記事が見られたが、浅川幸子氏が一〇日に亡くなったと言う。
  • 入浴後、零時前からふたたび読書に精を出した。バーバラ・ジョンソン/土田知則訳『批評的差異 読むことの現代的修辞に関する試論集』である。小難しくてよくわからない部分も当然あるものの、面白い。ここ最近は読書に積極的に邁進できており、この本も早くも明日には読み終わるだろうと予測された。次回の読書会は四月一一日、課題書は星新一『マイ国家』とフィリップ・K・ディック『高い城の男』である。二冊あるけれど、どちらも小説だし星新一などはかなり読みやすい部類のものだろうから、二週間もあればおそらく問題なく読了できるだろう。そういうわけで、三月二八日頃になったら課題書に取りかかれば良いので、あと一冊か二冊は別の本を読む余裕がある――とこの日には考えていたのだが、結局その後、課題書を読むには一〇日もあれば充分だろうと見通しを楽観的に修正し、一冊二冊どころか三〇日現在までに、バーバラ・ジョンソンのほか四冊を読み切っている。この調子でがつがつと、どんどん貪るようにものを読みまくっていきたい。


・作文
 27:34 - 28:08 = 34分(20日

・読書
 14:08 - 15:10 = 1時間2分(ジョンソン)
 15:18 - 15:30 = 12分(「記憶」)
 20:33 - 21:20 = 47分(ジョンソン)
 21:51 - 22:21 = 30分(ジョンソン)
 22:22 - 22:52 = 30分(「記憶」)
 23:54 - 25:25 = 1時間31分(ジョンソン)
 28:08 - 28:42 = 34分(ジョンソン)
 計: 5時間6分

  • バーバラ・ジョンソン/土田知則訳『批評的差異 読むことの現代的修辞に関する試論集』: 183 - 253
  • 「記憶」: 40 - 58

・睡眠
 5:05 - 13:30 = 8時間25分

・音楽

  • dbClifford『Recyclable』
  • FISHMANS『空中キャンプ』