2020/4/18, Sat.

 その瞬間から、……アウシュビッツの門をくぐったその瞬間から、わたしたちは人間でなくなりました。番号だけの存在、あるいはただの物体となってしまったのです。犬のほうが、よほど価値がありました。ドイツ人は、我々をいつでも射殺したり、絞首刑にしたり、(その他いろいろな方法で)殺したりすることができました。どんな違法なことをしても、罪にはならなかったのです。収容所では三カ月しか生きられないと言われました。「何か問題をおこせば、すぐに焼却炉に連れていかれる。そうすれば焼却炉の煙突から出て行かれる」とまで言われました。
 (花元潔編集・解説/米田周インタビュー『アウシュヴィッツの沈黙』東海大学出版会、二〇〇八年、162; マリアン・バフの記憶)



  • この日は圧倒的に、ほとんど絶対的に、完膚なきまでにだらだらと怠けた。ギターと戯れたり、インターネットに繰り出して長々と遊び回ったりしていたのだ。とは言っても一応、詩を多少考えもしたけれど。今のところ五つ、あるいはまもなく六つになるのかもしれないが、それらの詩片を並行的に手掛けている。そのうちの一つは短いものとして考えており、あとほんの少しで出来上がりそうなのだが、締めくくり方が固まっておらず、上手い形に到達していない。大まかな方向性は見えているのだが。
  • 雨降りにもかかわらず父親が林から筍を採ったらしい。それで例によって天麩羅にする。筍のほかに竹輪と牛蒡も用意し、揚がるのを待ちながら台所で開脚をした。こういう合間の時間を活用して身体の筋を伸ばし、肉を和らげるのが肝要だ。
  • 天沢退二郎入沢康夫・宮沢清六編『宮沢賢治全集Ⅰ』(ちくま文庫、一九八六年)を進める。一応三時間弱、一五〇頁くらいは読んだので、完全に怠けていたというわけでもないか。詩作品なので散文よりも進みが速いわけだが。しかし、できればもっとがしがしと読み耽りたいとは思う。昔の作家なので、こちらが使うことのない、自分の言語秩序や語彙体系のなかには含まれていない語がたくさん出てきて、そういう端的な言葉の面白さというものはある。結局、文学の類を読んでいて自分が面白いのはそこに尽きるのかもしれない。まだ知らぬ言葉の用法、連結、組み合わせ、共鳴、響応に出くわすということ。例えば「序」の一節、「けれどもこれら新生代沖積世の/巨大に明るい時間の集積のなかで」(16~17)に典型的だが、地質時代区分の用語などこちらはその順序すらまったく知らず勿論意味など理解していないし、多分一度も使ったことがない。地質学の語彙はそのほか、「おれなどは石炭紀の鱗木のしたの/ただいつぴきの蟻でしかない」(52; 「真空溶媒(Eine Phantasie im Morgen)」)とか、「いま日を横ぎる黒雲は/侏羅[じゅら]や白堊のまつくらの森林のなか/爬虫がけはしく歯を鳴らして飛ぶ/その氾濫の水けむりからのぼつたのだ」(85; 「小岩井農場」)といった形で出てくる。
  • 一一一頁(「風景観察官」)には、太陽光の表現として「橙黄線」という一語が見られる(「も少しそらから橙黄線を送つてもらふやうにしたら」)。これは珍しい。と言うか、射し降る陽光をこの言葉で表したのは、多分ほとんど宮沢賢治一人ではないのだろうか。是非ともいただきたいところだ。同じ詩中のすぐあとには「黄水晶[シトリン]の夕方」という表現もあって、これもなかなか素敵なので自分でも使いたい。全体的に、宮沢賢治の色彩表現には物珍しく新鮮なものが多く見つかる気がする。
  • 空の果てすなわち天涯のことを「天末」と呼び、さらに地平線を「天末線」と言って「スカイライン」というルビを振ることもある。この「天末線」も使えそうな言葉だ。
  • 「東岩手火山」中には、「雲の海のはてはだんだん平らになる/それは一つの雲平線[うんぴょうせん]をつくるのだ」(142)と書かれてあるが、この「雲平線」というのも宮沢賢治特有の語彙だろう。多分彼が造り出したものなのではないか。
  • 「無声慟哭」パートの「永訣の朝」、そしてそれに続く「松の針」はどちらも非常に有名な篇で、少なくとも前者は間違いなく高校の教科書に載っていて授業でも読んだ記憶があるが、これも何だかんだ言ってもやはり充実した作品であり、緊張感の通[かよ]った言葉で痛烈な哀切と悲嘆とを見事に表出し、語り上げ、定着させているように思われたので、のちほど全文書き抜くつもりだ。


・作文
 12:00 - 12:29 = 29分(詩)
 12:40 - 12:45 = 5分(詩)
 21:40 - 22:07 = 27分(詩)
 27:10 - 28:06 = 56分(18日)
 28:06 - 28:26 = 20分(2日)
 計: 2時間17分

・読書
 19:17 - 20:12 = 55分(宮沢)
 25:22 - 27:05 = 1時間43分(宮沢)
 28:38 - 28:57 = 19分(宮沢)
 計: 2時間57分

・音楽