2020/5/27, Wed.

 グレーゴル・ザムザは、カフカの読書体験から得られた名前であろう。ビンダーの研究によると、ヤーコプ・ヴァッサーマンのロマーン『若きレナーテ・フックスの物語』にグレーゴル・ザマッサ(Gregor Samassa)という人物が登場している。おそらくカフカは主人公の名前を決定する際に、この人物の名前を思い浮べたと思われる。ヴァッサーマンは彼が特に敬愛する作家で、しかもこの小説は当時よく読まれた作品であったから、なおさらその可能性が高い。けれどもカフカが安易に他の作家の人物名を借用したとは考えられない。読者に多義的な意味解釈を強いる彼は、名前に対しても重層的な意味を盛り込んだに違いない。ラジェクはザムザ(Samsa)という姓を、スラブ系言語の合成と考えている。Samはチェコ語で「ひとりで(allein)」あるいは「自分で(selbst)」の意味であり、saはスロヴァキア語の再帰代名詞で「自身(sich)」を表す。このsam sa(自分自身)をチェコ語だけで書くとsam seとなる。カフカチェコ語の意味をも踏まえて、ザムザと命名したのではないだろうか。彼がチェコ語を話せたこと、またそのチェコ語の意味が主人公の孤独な生活や、第一部での家族のばらばらな状況(但し主人公を除いて、最後に完璧な統一をみせる)に似つかわしいことが、その主な理由である。
 グレーゴルという名前は、前述したようにグレーゴル・ザマッサと関連があった。しかしこの場合にも、背後に重要な意味が隠されているように思える。グレーゴル(Gregor)はグレゴーリウス(Gregorius)に由来し、そのギリシャ語の意味は、「見張る人」である。確かに彼は変身後の自分の姿を、科学者のような目で精確に見ている。姓の意味と考え合わせると、グレーゴル・ザムザは「自分自身を見張る人」の意味になり、カフカは主人公の名前で物語の本質をある程度明かしたことになる。(……)
 (高橋行徳『開いた形式としてのカフカ文学』鳥影社、二〇〇三年、167~168)



  • 九時のアラームでつつがなく覚醒。すぐに起床せず、頭や首筋の肉を指で押してほぐし続け、一〇時を回ってから床を離れた。食事を取りながら新聞を読むあいだもずっと首周りを指圧しており、むしろその時間を取りたいがためにさほど興味のない記事まで拾って情報収集を引き伸ばしていた節すらある。それでかなりたくさんの記事を読んだが、これらはあとで最下部に記録しておくつもり。
  • 正午過ぎから四時半までコンピューターを前にして大々的に怠けた。さすがにちょっと遊びすぎだろう。睡眠が六時間足らずだったためか、あるいはモニターを長時間見つめ続けたためか眠いようで、同時に脚もこごっていたのでベッドに移る。それで奥村恆哉校注『新潮日本古典集成 古今和歌集』(新潮社、一九七八年)を読みつつ休もうと思ったところがあえなく意識を落としてしまい、母親が帰ってきても夕食の支度に向かえなかった。六時半にようやく拘束から解放されて上に行き、母親に謝ると素麺を茹でてくれと言うので作業に掛かる。まず洗い桶に大根をスライスし、レタスもちぎって散らして生サラダを拵え、それから大鍋で素麺を茹でて何度も流水にさらしながら洗えばもう七時である。ほかの品――天麩羅や、余った衣を焼いたお好み焼き風の料理や、モヤシを和えたサラダなど――は母親が既に用意してくれていたので、そろそろ食べはじめようと思ったが、あと一つ、自家製の小さな大根の葉が茹でられたまま放置されていたので、それを切り分けて刻んだハムと一緒に炒めた。そうして食事。芸能人の昔の同級生を探し出して思い出話などを聞くという趣向の番組を眺める。最初は沢村一樹。次に川口春奈と言ったか、長崎は五島列島出身の女優らしき人が出てきたのに全然知らんわと漏らすと、クノールカップスープのCMとかに出てるよと母親が言うものの、やはり全然わからない。AKBとかではないの? と訊いたが、違うらしい。もはやAKBなどのアイドルも女優もこちらには区別がつかず、たかだか三〇歳なのに発想が爺さんみたいになっている我が身だ。その川口という人が小学生の時分に好きだったという男性が登場したのだが、その恋人もまた川口春奈の同級生だったところ、彼女は二人が付き合っているという事実を知らなかったらしい。中三から交際していると言っていたので結構長い恋人たちだ、とまあそういう番組だけれど、内容として大して面白くはなかった。
  • 食事は遅くとも八時までには終えていたはずで、風呂に入りはじめたのは九時一五分だったのだが、そのあいだの一時間ほどに何をやっていたのかまったく不明である。この箇所のメモを取ったのは二八日の午前三時台で、まだ七時間ほどしか経っていないのだが、記憶が完璧に欠落している。日課の記録も残っていない。インターネットだろうか? たぶんそうではないかと思うが、と言って何のコンテンツに触れていたのかもまったく思い出せない。
  • ともかく九時過ぎには入浴し、風呂場では相変わらず入湯前にストレッチをする。腰ひねりがとにかくやばくて、これを行うだけで肉体のしなやかさ及び基盤的安定性が抜群に変わるので、人類は全員これをやって自らの身体を律するべきだ。風呂を上がるとDiana Krall『Live In Paris』をバックに「英語」及び「記憶」を一時間ほど復読。あと三宅さんのブログをちょっと覗いたら、昨晩こちらが送ったメールに返信しようとしてもなぜかエラーになってしまうと書かれてあったので、gmailのほうから送り直しておいた。
  • 「【特別掲載】大疫病の年に マイク・デイヴィス、コロナウィルスを語る」(2020/4/7)(http://www.webchikuma.jp/articles/-/2004)から昨日余した一頁を読む。

 だが、包括的保障とそれに付随する要求は最初のステップにすぎない。大統領選初期の討論では、サンダースもウォレンも、巨大製薬会社(ビッグファーマ)が新しい抗生物質や抗ウィルス薬の研究開発から撤退した点には踏み込まなかった。アメリカにある18の巨大製薬会社のうち、15社は完全にこの分野を見捨ててしまっている。心臓病の薬、中毒性のある精神安定剤、そして男性の勃起不全の治療薬は儲かる薬の筆頭だ。対照的に、院内感染の防止や新しく現れた病気、また昔ながらの熱帯性の病気などは儲からない。インフルエンザの汎用ワクチン、つまり変異しないウィルス表面のタンパク質を狙うワクチンは数十年前から開発可能なのだが、ED薬など儲かる薬より優先するほどの利益を見込めないのだ。
 (……)
 ワクチン・抗生物質・抗ウィルス薬など生存に関わる薬へのアクセスは、人権として保障され、いつどこでも無償で利用できるようにすべきだ。こうした薬を安価に製造するためのインセンティヴをもたらす力が市場にないなら、政府とNPOが責任を持って製造・配布すべきだ。貧困者の生存はどんなときも、巨大製薬会社の利益より優先順位が高くなければならない。

 ハンチントン病ハンチントンびょう、英: Huntington's disease)は、大脳中心部にある線条体尾状核神経細胞が変性・脱落することにより進行性の不随意運動(舞踏様運動、chorea(ギリシャ語で踊りの意))、認知力低下、情動障害等の症状が現れる常染色体優性遺伝病。日本では特定疾患に認定された指定難病である。
 1872年に米国ロングアイランドの医師ジョージ・ハンチントン(George Huntington)によって報告され、かつて「ハンチントン舞踏病」(Huntington's Chorea)と呼ばれていたが、1980年代から欧米では「ハンチントン病」(Huntington's Disease)と呼ばれるようになった[1]。日本でも2001年から「ハンチントン病」の名称を用いている。

  • 「治療法はなく、末期ステージには終日介護が必要となる」とのこと。また、典拠も示されていないので本当かよという感じではあるものの、「南アフリカの「アフリカーナー」と呼ばれる250万人程の集団のうち、100万人は20種類の姓に限られており、これらは20家族の子孫と考えられる。この20家族のうちにハンチントン病の患者が居たために、アフリカーナーの集団にそれが好発することは、遺伝の専門家の間では有名である」とも記されてある。
  • 三時直前から日記。BGMはDonny McCaslin『Casting For Gravity』。Donny McCaslin(ts)、Jason Lindner(ep / p / synth)、Tim Lefebvre(eb)、Mark Guiliana(ds)、David Binney(vo / add synth)。David Binneyはプロデュースも担当しており、さらにExecutive ProducerはDave Douglasだ。Systems TwoにてMike Marcianoによって録音され(二〇一二年五月)、マスタリングは色々な作品でドラムを叩いてもいるNate Wood。まさしく勢揃いという感じである。Nate WoodはKneebodyとかTigran Hamasyanのアルバムとかに参加しており、あとJose Jamesともやっていなかったっけと思ったところが、それはNate Smithのほうだった。
  • 四時二分でメモ書きを切りとする。五月二三日の記憶を記録に変換していたのだが、まだ終わらない。コンピューターを落としたあとこの日の夕刊を一〇分だけ読み、四時一三分に消灯。窓外は既に鳥の声に満ちている。なぜなのかわからないが、日中よりも暁方のほうが明らかに鳥声が賑やかに響く。幾種類もの声が交錯して咲き乱れているさまが露わに聞き取られるのだが、単純に人間の活動の気配がほぼないからだろうか?
  • 新聞、朝刊七面。【「ウイルス流出」真相握る女性/武漢研究所説を否定/中国テレビに「検体調査まで存在知らず」】。「新型コロナウイルスが中国・武漢市の武漢ウイルス研究所から拡散したとする米国の主張を巡り、真相のカギを握るとされる女性研究員が、中国のテレビ局による25日公開のインタビューで疑惑を否定した」。「この女性研究員は、コウモリを宿主とするウイルスの研究で知られる石正麗[シージョンリー]氏で、国営中国中央テレビの海外放送を手がけるCGTN(電子版)がインタビューを伝えた」。石氏曰く、「新型ウイルスの存在について、感染者の検体が研究所に持ち込まれるまで知らなかった」らしく、「昨年12月30日にその検体を調べた結果、「我々が知っているウイルスの配列とは異なることが証明された」という」。この「石氏はフランスの名門大でウイルス学の博士号を取得し、かねて「バット(コウモリ)ウーマン」の異名で知られ」、「武漢市の地元紙によると、2002~03年のSARS重症急性呼吸器症候群)大流行の後、自ら洞窟に赴いて野生のコウモリを捕獲し、ウイルスがコウモリに由来することを突き止めたという」。
  • 夕刊二面、【香港「国歌条例」審議入り/侮辱禁止 立法会周辺は厳戒】。「香港立法会(議会)は27日、中国国歌への侮辱行為を禁じる国歌条例案の審議に入る」。「中国では2017年に「国歌法」が成立し」、中国政府は「香港にも、関連する法整備を求めてきた」。「香港政府は昨年1月、違反には最高で禁錮3年の刑罰を科すことなどを盛り込んだ条例案を立法会に提出し」ていたものの、「民主派の反発で審議入りが遅れていた」とのこと。


・作文
 26:52 - 27:27 = 35分(5月27日)
 27:27 - 28:02 = 35分(5月23日)
 計: 1時間10分

・読書
 22:04 - 22:24 = 20分(英語)
 22:24 - 23:00 = 36分(記憶)
 23:07 - 23:32 = 25分(デイヴィス / Wikipedia
 23:47 - 25:00 = 1時間13分(古今和歌集: 122 - 130)
 25:22 - 25:37 = 15分(日記)
 28:03 - 28:13 = 10分(新聞)
 計: 2時間59分

  • 「英語」: 16 - 50
  • 「記憶」: 162 - 171
  • 「【特別掲載】大疫病の年に マイク・デイヴィス、コロナウィルスを語る」(2020/4/7)(http://www.webchikuma.jp/articles/-/2004
  • Wikipedia: 「ハンチントン病
  • 奥村恆哉校注『新潮日本古典集成 古今和歌集』(新潮社、一九七八年): 122 - 130
  • 2019/5/11, Sat.; 2019/5/12, Sun.; 2014/7/6, Sun.
  • 読売新聞二〇二〇年五月二七日水曜日夕刊

・音楽

  • Diana Krall『Live In Paris』
  • Donny McCaslin『Casting For Gravity』