2020/7/30, Thu.

 ポーランド降伏の翌[一九三九年]一〇月七日、ヒトラーヒムラーを「ドイツ民族強化全権」に任命し、東方における民族新秩序計画の策定・実施を行うように命じた。このドイツ民族強化全権には、ヒトラーの指令によって、「ドイツ国家および民族共同体にとって危険をなすような異質な部分の有害な影響力を排除」する権能が与えられていた(第一条第二項)。これはヒムラー、さらにはハイドリヒの国家保安本部に、大量強制移送・殺害の実行権を与えるものであった。当面の具体的な目標は、スラヴ系民族の排除・強制移住、ドイツ人、民族ドイツ人(ドイツ国籍を持たない在外ドイツ系民族)の入植であった。
 (芝健介『ホロコースト中公新書、二〇〇八年、70~71)



  • 正午を回って離床。夢見があった。高校時代、こちらは三年B組に属していたのだけれど、隣のA組の男子たちの一部からは、嫌われていたとまではいかないだろうがいくらかいけすかない野郎だと思われていたようで、それが反映されているのか否か、このA組の連中に日記を馬鹿にされるような夢を見た。なんかA組の誰かがこちらの日記をまとめて晒しものにしているみたいな噂を夢中で聞いたのだ。それでのちほどインターネットを検索してみたけれど、特に晒されているような気配はつかめなかったので、あれはどうも、A組のなかだけで誰かがこちらの営みのことをおかしな行いとして流通させ、小規模な範囲で馬鹿にしているということだったらしいと判断した、とそれくらいの記憶しかない。それともなんらかの点で関連していたはずなのだが、剣道部の見学に行く場面もあった。御嶽のあたりまで電車で行くと、駅から直接つながった形で体育館があり――駅の様子は現実のそれとはまったく違って清潔な近代建築といった感じだったが――、なかに入ると剣道部が練習を行っていた。高校で実際に剣道部の顧問をしていた体育教師のMという人がいたようだ。
  • 上階へ。今日は四時過ぎから労働で、いま食べると勤務中に腹が減ってしまうだろうというわけで、もうすこし経ってから食事を取ることにして風呂を洗うのみで帰室した。六月一七日の日記を書くのだが、鼻水がやたらと湧き出て難儀する。気温が比較的涼しくなったのに加えて、胃が空なので体温が下がっているのではと推し量った。あるいは単純に昼夜逆転が祟って自律神経とやらが崩れているのかもしれない。
  • 一時四五分で切って食事へ。シチュー、サバ、米、胡瓜のスライスに小松菜。保険証持ってきてと母親が言う。父親の仕事が明日で終わりなので返却しにいくようだ。保険料を自分で払うようになるのかと訊くと、まだ二年はOB扱いで会社が出してくれるようなことを言っていた。いくらなのか知らないが、普通にけっこうかかるだろう。自分で払えねえぞ、そんなに稼いでねえぞとぼやいておく。
  • その後緑茶を飲みつつ六月一七日を仕上げると二時四五分過ぎで、電車に乗るならあと一五分しか猶予がない。普通に無理じゃね? と思い、歩いていくことにした。鼻水は相変わらずやたら出る。それから脚をいくらかやわらげておこうと思って、ボールを踏んだり転がって脹脛をほぐしたりしながらウィリアム・シェイクスピア小田島雄志訳『シェイクスピア全集 マクベス』(白水社白水uブックス29、一九八三年)を読んでいるうちに、三時一五分にも至ってしまった。用を足し、さっさと着替えて出発。
  • 林からミンミンゼミの鳴き声が湧出しており、サウンドスケープがだいぶ夏らしくなっていた。坂の入口付近から見える川はほとんど緑も含まれていないような淡い色で、ただ淡いと言って爽やかでもなく、濁り淀んだような淡さだ。クロアゲハがなぜだかたくさん木の間を舞っていて、坂を上るあいだに五匹は見かけた。先日同様、Uくんの真似をしてオンライン家庭教師でどうにか金稼げねえかなあとか無駄な皮算用をしつつ表へ歩いていく。
  • 鼻水はやはり湧いてくる。だましだましそれに耐えながら街道を行き、裏路地に入って進めばはやくもカナカナが鳴きだしており、丘の樹々から響きが拡散している。途中の家の小さな駐車スペースに、久しぶりで白猫がいた。去年はたびたび出くわしていたが、今年に入ってから見かけたのははじめてではないか。近づいてしゃがみ、頭や腹をちょっと撫でてやる。時間がなかったので一、二分しか割けずにすぐに立ち上がって先を行ったが、久々に会え、生きていることがわかって良かった。ちょっと急ぐかというわけで歩幅を大きくして進み、旧家然とした一軒の塀内に生えたサルスベリの枝先が白く膨らんでいるその下を通過する。それぞれ大きな荷物を抱えた小学生らと何人かすれ違った。そろそろ学期終わりなのだろう。
  • 職場。鼻水やばい。労働中もずっと湧いており、鼻をかんだと思えばまたすぐに垂れてきて、ティッシュで処理するために解説をたびたび中断しなければならなかった。(……)さんや(……)さんに風邪ですかと訊かれるが、なんか鼻水がめっちゃ出て、たまにそういう日あるんですけどと答えておく。実際風邪なのか否かわからない。新型コロナウイルスだとしたらちょっとまずいが、咳とか息苦しさとか熱っぽさとかはなくてとにかく鼻水が出るだけなのでたぶん違うのではないか。
  • 今日は二コマ、最初の時間は(……)さん(小五・算数)のみが相手。授業前に(……)さんも現れて、今日は本当は授業がなかったのに来てしまって自習をさせられていたが、この二人は仲が良いので雑談していたところに、そろそろ授業時刻だというわけでこちらも移動すると、(……)さんがこの人の授業は面倒臭くて嫌、みたいなことを(……)さんに言い、(……)さんも本人の前なのに、みたいに笑って、こちらも、俺めっちゃ嫌われてるやんと苦笑を見せた。(……)さんとは最近は当たっていないのだけれど、どうも面倒臭い相手だという印象が根づいてしまっているらしい。残念である。とても愛らしい子なので、どちらかと言えば気に入られたい。とは言え生理的に嫌われているというわけではないようで、のちに彼女が教室内をうろちょろしていたあいだにはあちらから近づいて話しかけてきてくれたが。たぶんこちらから距離を詰めようとするとかえって良くないのだろう。あちらからおのずと親しんでくるのを待つのが良さそう。(……)さんの算数は小数同士の割り算を扱い、だいたい問題なさそうだが、本当は単純にもっと勉強量を増やさなくてはならない。一応中学受験もする方針のようだし。それなので復習を宿題に加えたかったのだが、交渉に失敗した。と言うか普通に拒否された。
  • 二コマ目はもともと(……)くん(中二・英語)と(……)さん(中三・社会)だったのだが、(……)くん(中一・英語)がまちがえて来てしまったということで急遽追加されて三人になった。三人だとやはりそれ相応に忙しい。(……)くんは今日は元気なし。眠かったようだし、後ろの席の(……)くんが騒ぐのにも辟易していたのかもしれない。教科書を一ページ復習し、ワークの並べ替えをすこしだけやり、そのうちまちがえた一文を練習してもらった。この練習はかなり回数をこなしてくれたし、あとで別紙に書く際にも、もとの文を見なくともほとんど書けていた。悪くない。
  • (……)くんは嫌だ嫌だばかり言っていてなかなか進まない。(……)さんが途中でちょっときつい口調を向けていた。一応文法は理解しているようで、口で言うことはできるのだが、英単語や英文を書けるかというと心もとない。(……)さんは意外と進まず。世界三大宗教や西欧の主要五か国や西アジアなどについて確認。本当はもっと綿密にやりたいのだが、三人相手だとやはり限界がある。バチカン市国について、都市のなかに国があるんだよ、と言ってそのわけを説明すると、わりと興味深く感じたような反応があった。そういうところからだんだん面白味を感じてもらい、苦手意識をなくしてくれると良いのだが。
  • 授業後、記録をつけたり片づけをしたりして退勤。マスクはつけたままだった。電車は発車間近、駅に入って大股で階段を上り、乗車して扉際で到着を待つ。やはり鼻水が垂れるので、ハンカチで鼻を押さえる。最寄りで降りて抜けると木の間の坂道を下っていく。帰路をたどりながら身体の感覚を注視してみたが、熱っぽい感触はない。夜に窓を開けたまま寝ているので鼻腔のあたりが冷やされて弱くなるのでは? などと考えたが定かではない。
  • 帰宅後、着替えてからちょっと休もうとベッドに転がったところが、ウィリアム・シェイクスピア小田島雄志訳『シェイクスピア全集 マクベス』(白水社白水uブックス29、一九八三年)を読みながら一時間近く過ごしてしまった。そうして九時半に食事へ。米、布海苔の味噌汁、ゴーヤの綿やミョウガの天麩羅、ゴーヤ炒め、ポテトサラダなど。食後、冷蔵庫にあった「ルル-A錠」を飲んでおいた。帰室して日記を書いていると、天井がどんどん鳴る。時刻は一一時ごろである。風呂に入るようにとのサインだが、一一時過ぎには父親が帰ってくるという話だったので、間に合わないだろうと思っていた。ひとまず上がっていくと寝間着姿の母親が入浴をうながしてきて、何時に帰ってくるのかと訊けば一一時半だと言う。先ほどは一一時過ぎと言っていたのでまちがいではないかと思ったが、はやく入っちゃいなよと言う母親の語調がなんだか不機嫌そうな感じだったので、何やねんこいつと思いながら風呂に行ったところ、やはりまもなく父親の車の音が聞こえた。それでも急がず普通に頭を洗って身体も擦り、一一時半ごろ出ていくとソファに就いていた父親が、こちらが鼻水を垂れ流しているということを聞いたのだろう、大丈夫なのかと訊いてきた。彼の懸念はもちろん新型コロナウイルスにかかっていないかということで、なおかつこちら自身の身を慮っているというよりは、やはり他人に感染させないかと恐れているようで、ほかの人にうつしたら大変だぞ、塾の子どもたちとか、と口にし、朝と夜に体温測れよと強めの口調を向けてくる。べつに異存はないが、人が体調をちょっと乱しただけでコロナウイルスかどうかも未確定なのに、「測れよ」などと強い命令調の言葉を発するあたり、自身の正当性を確信しきった言語使用の感が如実だ。自分自身と他人への感染を防ぐ努力はもちろんするべきだと思うけれど、個々人にできることと言って、場合と状況によってはいくらかの「外出自粛」をすることと、そのほかにはマスクをつけること、殺菌消毒の機会があればその都度すること、頻繁にかつ入念に手を洗うことくらいしか大方ないわけで、普通にそれらを実践していても感染してしまったらもう仕方ないのではないかと思う。だが父親の感じだと、もしこちらが実際に新型コロナウイルスに感染していると判明したとしたら、感染したことそれ自体を非難するような言表をくりだしてくるのではないか。まあそれはこちらの主観的な仮定の話なので実際どうかわからんが、仮にこちらが感染していたとしても、それをどこで拾ってきたのか、誰からもらったものなのかはまるで不明だし、たとえば実は父親や母親からもらっていたのだけれど彼らは無症状でこちらだけ症状が出ているという可能性だって普通にあるはずだけれど、そういったことを理解しているのだろうか?
  • 帰室後だったか夕食後だったか忘れたが、新型コロナウイルスについてちょっと検索してみると、もっとも典型的な症状としては空咳と発熱、倦怠感があるらしく、いまのところこちらの身体においてはこの三つとも観察されず、とにかく鼻水が出るだけである。鼻水はコロナウイルスの症状としては比較的すくないようなので、たぶん普通に風邪っぽいだけなのではないかと思うが。今日のことを途中まで記述し、その後零時半過ぎからベッドにコンピューターを持ちこんでだらだら。二時間経って二時四〇分ごろになるとデスクにもどり、青梅図書館で借りているCD三枚の情報を記録した。そののち、バーバラ・ジョンソン/土田知則訳『批評的差異 読むことの現代的修辞に関する試論集』(法政大学出版局/叢書・ウニベルシタス(1046)、二〇一六年)の書抜き。ようやく最後まで終わらせることができたが、書抜きをしなければならない本はまだ一五冊以上溜まっている。四時前からふたたびベッドにコンピューターを持ちこみ、五時過ぎまで遊んでから寝た。


・読み書き
 12:54 - 13:45 = 51分(日記: 6月17日)
 14:18 - 14:46 = 28分(日記: 6月17日)
 14:48 - 15:14 = 26分(シェイクスピア: 110 - 121)
 20:36 - 21:28 = 52分(シェイクスピア: 121 - 150)
 22:44 - 22:53 = 9分(日記: 7月30日)
 23:33 - 24:36 = 1時間3分(日記: 7月30日)
 27:20 - 27:43 = 23分(ジョンソン: 247 - 250)
 計: 4時間12分

・音楽

  • Darcy James Argue's Secret Society『Brooklyn Babylon』
  • The Dave Brubeck Quartet『Time Out』