2020/8/29, Sat.

 ストーナーの学位論文の主題は"古典的手法が中世叙情詩に与えた影響"だった。夏の大半の時間を、古代及び中世のラテン語の詩、特に死を題材にした詩作品の再読に費やした。そこでもまた、ローマの抒情詩人たちが死という事実を淡々と受け入れるその典雅さに、驚嘆を覚えた。まるで、待ち受ける虚無の闇が、自分たちの享受した歳月の豊かさへの賛辞であるかのような……。(……)
 (ジョン・ウィリアムズ東江一紀訳『ストーナー』作品社、二〇一四年、47)



  • 一一時二二分離床。六時台後半の入眠だったので、五時間も滞在していない。水場で顔を洗ったりうがいをしたりしてきてから久しぶりに瞑想。自分の身体を空間に嵌めこむような意識。だが嵌めこむと言って、パチっと嵌まってぴったり固定されるのではなく、流体的な大気に包まれているから微動すれば空気がまたそれに応じてこちらのからだをかたどってくれるような感じ。二〇分ほど座った。「(……)」みたいな構成の詩案を思いつく。
  • 上階へ行くと母親が帰ってきたところだった。こちらは髪を梳かすとハムエッグを焼いて米に乗せ、そのほかナスのソテーや冷凍食品のメンチやキノコの味噌汁やサラダとともに食事。新聞は当然だが、安倍晋三首相の辞任を伝えている。持病の潰瘍性大腸炎が悪化した由。後任候補には菅義偉石破茂岸田文雄の三人がさしあたり挙がっていて、ここに麻生太郎の名前がなくてひとまず良かったとは思う。テレビは『メレンゲの気持ち』だが大して目を向けず。清原なんとかという一八歳くらいの若い女性俳優が出演していたはず。
  • 風呂を洗うと緑茶を持って自室へ。母親が布団を干すと言うので手伝い、コンピューターを準備してスピッツ『フェイクファー』を流すと、青梅図書館で借りているCDのデータをEvernoteに写した。Yuji Takahashi『Poems Without Words』とJoe Barbieri『Dear Billie,  A Letter To Billie Holiday』。高橋悠治はFrançois Couperin、Gian Francesco Malipiero、Arnolt Schlick、Csapó Gyulaなどを取り上げている。後者三人は初見。マリピエロという人はイタリア・ファシズムと「微妙な距離をたもちつつ」、「ブルーノ・マデルナやルイージ・ノーノを教えた」らしい。チャポーという人は「モートン・フェルドマンジョン・ケージの教えを受け」たハンガリーの作曲家のようだ。まったくもってこの世には色々な人間がいる。

Yuji Takahashi(高橋悠治)『Poems Without Words』

François COUPERIN (1668 - 1733)
1. Les lis naissans.(花開くユリ)(1722)
2. Les roseaux.(葦)(1722)

Gian Francesco MALIPIERO (1882 - 1973)
Poemi Asolani(アーゾロ詩集)(1916)

3. Ⅰ. La notte dei morti.(死者たちの夜)
4. Ⅱ. Dittico.(二連画)
5. Ⅲ. I partenti.(出発する者たち)

Barlumi(きらめき)(1917)
6. Ⅰ. Non lento troppo, scorrevole.
7. Ⅱ. Lento.
8. Ⅲ. Vivace, alquanto mosso.
9. Ⅳ. Lento, misterioso.
10. Ⅴ. Molto vivace.

11. Yuji TAKAHASHI: Soradame Renku(空撓連句)(2016)
12. Arnolt SCHLICK (1455? - 1521?): Maria zart(優しいマリア)
13. Csapó GYULA (1955 - ) : Maria Zart Variations(「優しいマリア」変奏曲)(2018)


高橋悠治 ピアノ
Yuji TAKAHASHI, piano

ライヴ・レコーディング(2019.3.7 浜離宮朝日ホール
Live recording at Hamarikyu Asahi Hall, Tokyo, 7th March 2019.


表紙
"Décor de roses blanches"(Stained glass / 14th century)
Photo: (C) RMN-Grand Palais (musée de Cluny - musée national du Moyen-Âge) / Gérard Blot / distributed by AMF-DNPartcom

For this recording
DXD 384KHz, One Point Stereo Recording. Microphones; "Eterna Musicae" made by Didrik De Geer.
Damping alloy "M2052" is used for Master Disc.
DXD 384KHz、ワンポイント・ステレオ・レコーディング。デットリック・デ・ゲアール製マイクロフォン「エテルナ・ムジカ No. 13 & No. 14」使用。
制振合金「M2052」塗布によるマスター・ディスクを使用してのカッティング。

Tonmeister: Yoshiya Hirai
Sound Designer: Ken Ohtsuki

【表紙】タイトルもじ: 平野甲賀
【裏表紙】え: 柳生弦一郎

Production & Distribution: MEISTER MUSIC Co., Ltd.
MM-4059

     *

Joe Barbieri『Dear Billie,  A Letter To Billie Holiday


1. I'm A Fool To Want You [Jack Wolf - Joel. S. Herron - Frank Sinatra]
2. The End Of A Love Affair [Edward C. Redding]
3. The Very Thought Of You [Ray Noble]
4. I'll Be Seeing You [Irving Kahal / Sammy Fain]
5. I Get Along Without You Very Well [Hoagy Carmichael]
6. Dear Billie [Giuseppe Barbieri]
7. What A Little Moonlight Can Do [Harry M. Woods]
8. Don't Explain [Arthur. Herzog Jr. - Billie Holiday]
9. When You're Smiling [Mark Fisher - Joe Goodwin / Larry Shay]
10. You've Changed [Carl Fischer / Bill Carey]
11. Facendo I Conti [Giuseppe Barbieri]


Joe Barbieri: vo / g
Luca Bulgarelli: b
Pietro Lussu: p
Gabriele Mirabassi: cl


Produced by Joe Barbieri
Executive Production by Antonio Meola and Giovanna Maria Mascetti

Arranged by Joe Barbieri, Luca Bulgarelli, Pietro Lussu and Gabriele Mirabassi
Recorded, Mixed and Mastered by Stefano del Vecchio at Load Studio (Rome, Italy) (2018年)

Original Illustrations by Valentina Galluccio (VAGA), Graphic by Microcosmo Media
Photo by Angelo Orefice


the copyright in this sound if owned by microcosmo dischi.
(P)(C) 2019 Microcosmo Dischi

CORE PORT
RPOP-10029 CORE PORT, Inc.

  • 椎名林檎無罪モラトリアム』も借りているのだけれど、これはなんとなく面倒臭いから良いかなとデータ入力を怠り、便所で糞を垂れてきてからFISHMANS『Oh! Mountain』を流しだし、とりあえず今日のことをここまで書いた。心身の、もしくは意識の志向性をより拡張的で分厚いものにしつつ(広範囲に渡る面の様態に鍛え上げながら)、同時に強い集中性を確保できないかと思う。拡散(ヴィパッサナー)と一点集中(サマタ)という基本的に対立するはずの動態を矛盾的に二重化させられないか、あるいはそのあいだの移行 - 往還をよりすばやくできないか。
  • 続いて二七日のこともいくらか書いたあと、身体をほぐし和らげるためにベッドへ。ホフマンスタール/檜山哲彦訳『チャンドス卿の手紙 他十篇』(岩波文庫、一九九一年)を読みはじめたのだが、すぐさま意識が眩んで夢うつつになる。どうも単に眠いだけではないというか、頭が麻痺するような妙な感覚があったので、これはたぶん抗鬱剤離脱症状ではないかと思い、五時前だったかに起きてベランダに干してあった布団類を取りこんでおくと、セルトラリンを一錠飲んだ。そんなにすぐに効果は出ないが、のちには精神と意識がまとまって妙な感覚は消え去った。前回服用したのは二三日だから六日間経っているわけで、かなり期間がひらいていて良い感じだろう。そういえば離脱作用と関係があるのかわからないが、前夜の寝入り際にたしか幻聴を聞いたはずだ。幽霊だか精霊だか妖精みたいな不可視の存在がこちらの上に覆いかぶさるというか、すばやく近づいて上から覗きこむようにしながら、正確な文言を忘れたけれど、「こんなところで寝てるの?」みたいな声をかけてきたのだった。もしかしたら、「こんなところで寝ちゃ駄目だよ」みたいな禁止のニュアンスがあったかもしれない。三回くらい連続するとすぐに消えたが、相当にはっきりした幻聴で、自分の頭のなかだけで鳴っている音声や言語とは違い、現実の空間を振動させている声とまったくおなじように聞こえた。統合失調症の人が経験する幻聴というのもたぶんああいう感じなのではないかと思う。
  • それでこのときはせっかく二時間以上もベッドにいたのにだいたい意識が曖昧になっていたものだから、いくらも読み進められず。五時半過ぎで上階へ。料理は両親がやっていたのでこちらはアイロン掛けをした。外にもう残照の色はないが空は雲の一滴も受けず冷たい水色に澄んで明るく、子どもが産まれて殻が欠けた恐竜の卵みたいな月が白く現れはじめていた。仕事を終えるとはやばやと食事。ラタトゥイユというのか、マグロとかジャガイモとかをトマトソースで煮たような料理と、和風の煮物や鶏肉を乗せた生サラダなど。新聞を読みつつ食べる。
  • 夕食後は2020/6/27, Sat.の記述を進めた。七時直前からはじめたのだが、適当なところでいったん切ると八時半に至っていたので、もうそんなに時が経ったのかとちょっと驚いた。それから「英語」記事を音読し、九時で風呂へ。束子で身体を擦ると明らかに肌の質感がなめらかにほぐれる。束子の毛先でちくちくとこまかい刺激を受けることで筋肉が和らぐのだと思われ、たぶん料理のときに包丁で肉を叩いて柔らかくするのとおなじようなことではないか。
  • 自室に帰ると2020/6/27, Sat.をさらに進め、仕上げて投稿したあとは長くベッドで休憩して身体を休めた。一時前から三〇分昨日のことを書いたあと、豆腐とおにぎりと即席の味噌汁を用意してきて夜食を取りながらMさんのブログを読んだ。五月三日および四日分。そうして書抜きである。石川美子訳『ロラン・バルトによるロラン・バルト』(みすず書房、二〇一八年)を三箇所と新聞で三〇分。三時を回った。とにかく作業中は基本的に身体の余計な動きを排除し、要するに無駄を減らして不動性を確保すること。
  • 三時半までまた今日のことを綴ったあと、コンピューターを持ってベッドに移り、ウェブを回ったのち、五時二〇分に就寝。


・読み書き
 14:06 - 14:37 = 31分(2020/8/29, Sat.)
 14:43 - 15:21 = 38分(2020/8/27, Thu.)
 15:21 - 17:38 = 2時間17分(ホフマンスタール: 131 - 149)
 18:56 - 20:29 = 1時間33分(2020/6/27, Sat.)
 20:30 - 20:53 = 23分(英語)
 21:50 - 22:13 = 23分(2020/6/27, Sat.)
 24:56 - 25:26 = 30分(2020/8/28, Fri.)
 26:00 - 26:25 = 25分(ブログ)
 26:33 - 27:05 = 32分(バルト/新聞)
 27:06 - 27:26 = 20分(2020/8/29, Sat.)
 計: 7時間32分

  • 2020/8/29, Sat. / 2020/8/27, Thu. / 2020/6/27, Sat.
  • ホフマンスタール/檜山哲彦訳『チャンドス卿の手紙 他十篇』(岩波文庫、一九九一年): 131 - 149
  • 「英語」: 268 - 273
  • 「わたしたちが塩の柱になるとき」: 2020-05-03「身ひとつで捧げるものも他になしこの晴天を生贄とする」 / 2020-05-04「天罰は百科事典の中にこそ求めよさらば与えられん」
  • 石川美子訳『ロラン・バルトによるロラン・バルト』(みすず書房、二〇一八年): 127 - 130(書抜き)
  • 読売新聞2020年(令和2年)6月27日(土曜日)朝刊: 7面
  • 読売新聞2020年(令和2年)6月28日(日曜日): 1面

・音楽