2021/5/11, Tue.

 フーリエは、のちに刊行する「完全な本」(完全に明晰で、完全に説得的で、完全に複合的な本)の予告のためにしか、けっして著作を出していない。「本の告知」(〈刊行物案内〉)は、わたしたちの内なるユートピアを抑制する、あの時間かせぎの操作のひとつなのである。自分には書けない大著をわたしも思い描き、幻想をいだいて、色づけし、輝かせる。それは、完全な体系でありながら、あらゆる体系の嘲弄でもあるような知識とエクリチュールの本であり、知性と快楽の大全であり、懲罰的でありながらも心優しく、辛辣だが平和である本、などといったものである(ここで、形容詞が押し寄せてきて、想像界がふくれあがってくる)。ようするに、小説の主人公のもつあらゆる長所を有しているのだ。やがて来るもの(冒険)である。わたしはみずから洗礼者ヨハネになって、その本を予告するのである。
 (石川美子訳『ロラン・バルトによるロラン・バルト』(みすず書房、二〇一八年)、263; 「もっとあとで(Plus tard)」)



  • 上の引用に「やがて来るもの(冒険)」とあるが、ここを読んで英語のadvent、すなわち到来やキリストの降臨を意味する語をおもいだし、なおかつ冒険はadventureだから、このふたつの語は関連語だったのだなとはじめてきづいた。それにしても、あちらからやがてやって来るもの、が冒険(すなわち危険を冒すこと)でもあるというのはどういう含意なのだろう。
  • 一〇時一九分に離床。滞在はちょうど七時間ほどなのでよろしいが、からだがかたまっているかんじがあった。脚がこごっていたので今日は労働なしで余裕もあるし、すぐに活動をはじめず脚をもみながらだらだらすることに。それで水場にいってきてもどるとコンピューターをベッドにもちこんで、ウェブをみながら脹脛などをほぐした。一一時半をこえてから階をあがったはず。母親はテーブルに台をのせてアイロンかけをしていたようだが、(……)くんが旅行先でころんだか階段からおちたかしてあたまを怪我したといい、それをかんがえると泣けてきちゃってといって涙ぐんでいた。あたまがぱっくりわれて血がだらだらでたとかいっていたので、こちらも多少神妙なようになってきいて生きてただけよかったといったが、あとで写真をみたかぎりでは割れたのは額で、おおきなガーゼみたいなものははられていたが、めちゃくちゃひどい怪我というわけでもなさそうだったのでよかった。頭頂のほうがわれてあたまをぐるぐる巻きにしているようなようすを想像していたので。兄夫婦はカザンというところにいっていたはずだが、帰りの飛行機では(……)ちゃんが気圧の変化にたえられなくて泣き叫び、失神しながら小便を漏らしたらしいから、(……)くんとあわせて子どもたちも親も難儀なことだっただろう。
  • 食事はカレードリア的なものなど。新聞をみるに、一面にはスポーツ選手の画像をアダルトサイトに載せて猥褻なコメントを付した運営者が逮捕されたとの報。このひとだけで一〇くらいのアダルトサイトを運営しているとかあったから、エロサイトってマジでやればけっこうもうかるのだろう。ほか、国際面にはエルサレムの神殿の丘での衝突の続報。騒ぎはつづいており、負傷者は六〇〇人規模へ拡大。パレスチナのひとびとの側は投石で、イスラエル治安部隊の側は催涙弾などである。今回の件はもともとパレスチナ人がユダヤ教徒を平手打ちした動画がネット上にでまわったことが発端だとかいい、あと五月一〇日だかが一九六七年の中東戦争、すなわちイスラエルが東エルサレムを占領した戦争の記念日にあたるのだけれど今年はそれがラマダンとかぶってしまって、警戒したイスラエル側がパレスチナ人の神殿の丘への立ち入りを禁止したかなにかだったか、ともかく治安維持員をおおく設置してものものしくやっていたようで、それへの反発もあったようす。あとでテレビでもすこしだけ目にしたが、ガザでもハマスイスラエル側にロケット弾をうちこんだようで、その報復でイスラエル空爆をおこない、死者がでたと。
  • そのあとはベッド上でまた脚をほぐしながら英文記事をよみつづける。上のもの、David Robson, "The four keys that could unlock procrastination"(2021/1/5)(https://www.bbc.com/worklife/article/20201222-the-four-keys-that-could-unlock-procrastination(https://www.bbc.com/worklife/article/20201222-the-four-keys-that-could-unlock-procrastination))、そしてLu-Hai Liang, "The psychology behind 'revenge bedtime procrastination'"(2020/11/26)(https://www.bbc.com/worklife/article/20201123-the-psychology-behind-revenge-bedtime-procrastination(https://www.bbc.com/worklife/article/20201123-the-psychology-behind-revenge-bedtime-procrastination))を途中までと、なぜかワークライフバランス的なものばかりよんでしまったのだが、いざよんでみればけっこうおもしろい。procrastinationというのは先延ばしという意味で、やらなければならない仕事をあとまわしにしてしまったりとか、寝る時間をおくらせてしまったりとか、そういったことで、'revenge bedtime procrastination'もしくはretaliatory staying up lateというのは日中いそがしかったりして自分のやりたいことができなかったり自由な時間がもてなかったりしたひとが、それをカバーするというかとりもどすために眠る時間をおくらせて夜ふかししてしまう、ということで、こちらはわりとそういう傾向にあるのではないか。いつも夜ふかししているし。まあかなりだらだら生きているほうだし、自由な時間は世の大勢にくらべればそうとうおおいはずだが、自由な時間があろうがなかろうが夜ふかししてしまうが。この話題は昨年にも目にしてそのときも俺これかなあとおもったことがあったが、この記事によれば、Daphne K Leeというひとのツイートからひろまったらしい。“people who don’t have much control over their daytime life refuse to sleep early in order to regain some sense of freedom during late-night hours”というわけで、それによせられたリプライのなかでおおくの共感をえたのが、“Typical 8 to 8 in office, [by the time I] arrive home after dinner and shower it’s 10 p.m., probably won’t just go to sleep and repeat the same routine. A few hours of ‘own time’ is necessary to survive.”というもの。このことばの起源はあきらかではないが、確認されるかぎりではこのブログの記事(https://zhuanlan.zhihu.com/p/50163285?utm_source=wechat_session&utm_medium=social&s_r=0(https://zhuanlan.zhihu.com/p/50163285?utm_source=wechat_session&utm_medium=social&s_r=0))が初出だという。中国語なのでこちらはよめないが。中国のとりわけ都市部にはこういう生活習慣のひとがおおいようで、どこの国でもおなじだろうが、中国だと、‘996 schedule’とよばれている労働慣行というか一般的な働き方があるようで、つまり朝の九時から夜の九時までの労働を週に六日間こなす、ということだ。この記事は自由のために就寝時間を遅らせてしまうという意味でのprocrastinationの話題だが、そのまえのやつはやらなければならない仕事になかなかとりかかれず先延ばしにしてしまうという意味のprocrastinationに対処する方法ということで、記事によれば、以下の四つの問いを定期的にみずからにさしむけて反省というかreflectionするのが効果があるという。課題をかせられている大学生を対象にした実験で効力がみとめられたと。
  • How would someone successful complete the goal?
  • How would you feel if you don’t do the required task?
  • What is the next immediate step you need to do?
  • If you could do one thing to achieve the goal on time, what would it be?
  • 結論的な言としては、"The important thing, he says, is to regularly question what goals you actually value, and to check whether you’re prioritising them enough. You should then work out ways to chunk your task into smaller parts, before taking action on the first possible step."ということで、結局はやはり反省の時間を頻繁にとるということだろう。さいきんこちらが一日ごとにその日のよかったこととかわるかったこととかやりたいこととかもっとできたこととかを手帳にかきつけているのもおなじようなことだろう。なかでも、よかったことを毎日ふりかえって記し、明確化して印象づけるのはわりとよい気がする。
  • 四時ごろまで。トイレにいってきてからふたたび音読。今度は「記憶」を少々。音読のまえにすこしだがスクワットや腹筋もしたのだった。音読中はダンベルをもっている。音読はひとまずみじかくとどめておき、今日のことを書いておくことに。それでここまでつづると四時四〇分。
  • 夕食後、茶を飲みつつ、David Robson, "The mindset you need to succeed at every goal"(2020/7/22)(https://www.bbc.com/worklife/article/20200722-the-mindset-you-need-to-succeed-at-every-goal(https://www.bbc.com/worklife/article/20200722-the-mindset-you-need-to-succeed-at-every-goal))を読了。そのあとdiskunionのMale Jazz Vocalのカテゴリをみてみたところ、いろいろきになる情報がある。なかでもJose Jamesがキャリア初となるライブアルバムをだしたというのがきになって、日記をかくうしろにながしてみることに。Amazon Musicにアクセスすればふつうにあったので、ありがたいことだ。BIGYUKIが鍵盤で、ベースはBen Williams。ギターのマーカス・マチャドとドラムのジャリス・ヨークリーというひとはぜんぜん知らないが。ロックダウン下の二〇二〇年八月と一〇月に配信した無観客ライブの演奏をアルバム化したらしい。diskunionのページによれば場所は、「ウッドストック、リヴォン・ヘルム・スタジオ(DISC1)、ニューヨーク、ル・ポワソン・ルージュ(DISC2)」とある。Jose JamesとThe Bandがつながるのか、とおもった。べつにLevon Helmの名前でえらんだわけではないかもしれないが。