あなたは来ては去る。扉の締まるときは
並はずれてやわらかで、風もほとんど立たない。
ひっそりした家々の道を通りぬけて行くすべての
者たちのなかで、あなたは一番静かです。人はみんな、あなたの到来にすっかり馴れて、
読みふける本にあなたの青い影が落ちて
ページの絵に美しく着色しても
本から目を上げることがない、
物たちがあなたをたえず
ときに低く、ときに高く響かせているからです。いろいろな感覚であなたを見ることがあるけれど、
そのときあなたの姿はさまざまな形に分かれます。(end60)
あなたが淡く光る鹿の群れとなって歩むと、
わたしは暗い森となります。あなたが車輪なら、わたしはその脇に立ちます。
たくさんの暗い車軸のうちの
一つがいくたびも重さを増し、
回転しながらわたしに近づきます。それが回帰を繰返すことによって
わたしのやりたいと思う仕事は育っていきます。(神品芳夫訳『リルケ詩集』(土曜美術社出版販売/新・世界現代史文庫10、二〇〇九年)、60~61; Du kommst und gehst. ……; 『時禱詩集』 Das Stunden-Buch より; 第一部「僧院生活の巻」より)
- いつもどおり目覚めながらもなかなか起床に移行できず、一一時一四分。一〇時ごろにいちどひかりが射していて、顔のうえにかかったそれがとつぜん急激にあかるくあつくなってまぶしいときがあったが全体としては曇りの日。きょうの目覚めはあまりよくなかった。きのうにくらべるとからだがかたく呼吸をしづらかったようなかんじがあった。昨晩がわりと肌寒かったので、薄い布団と厚い布団と両方をかけて眠ったからかもしれない。水場に行ってきてから瞑想。正午まえまで。わるくない。
- 食事はカレー。母親が、このあいだのほうがおいしかった、なんかうまくいかなくて、足りない味になってしまったと言ったが、たしかに食べてみると塩気がかんじられなかったので、ソースとケチャップをすこしかけて混ぜた。新聞は衆院解散および選挙の話題や、子どもの不登校が最多という報など。黒田夏子が紫式部文学賞を受賞ともあった。『組曲 わすれこうじ』。黒田夏子は八四歳らしい。きのうだったか、泉鏡花文学賞の報もあって、村田喜代子というひとが取っていたがはじめて知るなまえだった。しかしこのひとももうベテランで、七六歳くらい。泉鏡花文学賞はいま金井美恵子が選考委員をつとめているから多少気になる。
- 国際面にはミャンマーで拘束中のウィン・ミン(NLD政権で大統領)が首都ネピドーに設置された特別法廷に出廷と。クーデター時のことを証言したといい、いわく、二月一日に国軍の高官二人が家に押し入ってきて、健康上の理由で辞任すると表明しろ、ことわれば多大な損害をこうむることになると脅しをかけてきたが、わたしは健康だ、辞任を承認するくらいなら死んだほうがいいと突っぱねて拘束されたと。
- もうひとつ、米国で対露強硬派として有名なヴィクトリア・ヌーランド国務次官がモスクワを訪問していると。このひとは二〇一四年にウクライナで親露派政権が崩壊したさいに裏で手引をしていたとロシアにみなされているらしく、ロシアから入国禁止措置を受けていたというが、今回交換条件で訪問がみとめられ、ロシア側の外交官や大統領顧問と会談をしているらしい。
- 皿洗い、風呂洗いをすませて茶をつくり、帰室。ウェブをちょっと見てからきょうのことをここまで。一時半。きょうもあしたもあさっても労働で日記をかたづける時間がなかなか足りない。
- 五時過ぎで出勤へ。母親がおくっていってくれるというので、図書館に寄って本を返却したかったこともあり、あまえた。図書館分館のすぐそとで下ろしてもらい、敷地内にはいってブックポストに詩集三冊を返却。そうして道にもどり、職場にむかってあるきはじめてまもなく、(……)そうして別れて道をすすむ。あたりの建物にかくれた西空の低みからほのかな茜色が海中のプランクトンのようにしてぼんやりと浮かびあがっているのが見える。
- (……)
- (……)
- (……)
- (……)
- 夜にはAshley Reese, "This Is What You Get"(2020/5/28)(https://jezebel.com/this-is-what-you-get-1843733893(https://jezebel.com/this-is-what-you-get-1843733893))を読み、一〇月一〇日の日記をようやくしあげることができた。さいきんはまた瞑想の時間を増やしている。起きたとき、外出前、帰宅後に休んだあと、とだいたい三回。ほんとうは寝るまえにもやりたいのだが、そのころになると疲労と眠気でかたちにならない。時間をとればやはりそれだけからだのまとまりや落ち着きはちがう。