2021/11/13, Sat.

 ひとつの言葉

 待つ……

 から
 ほかの言葉の
 雪崩がおこる

 女性を(end84)

 待つ……

 ときのこと

 (リチャード・ブローティガン福間健二訳『ブローティガン 東京日記』(平凡社ライブラリー、二〇一七年)、84~85; 「アルプス」 The Alps; 東京 一九七六年六月二日)



  • 九時台後半から覚めて、一〇時二〇分に離床。きょうもまったくの快晴で、雲の一滴もなく水色に凪ぎわたった空のまんなかにふくらみ浮かんだ太陽を顔にじりじり受けながら、喉やこめかみを揉んで深呼吸をした。脚をマッサージしながらすこしだけ書見も。起き上がると水場に行き、洗顔やうがいや用足しをしてもどり、瞑想。きょうは二時には家を発たなければならず、いつもより猶予がすくないので焦る気持ちがあったのだろう、一五分強でみじかく終わった。窓をあけなかったが、ひゅるひゅるというトンビの鳴き声がガラス越しに何度か聞こえてきた。
  • 上階へ。ハムエッグを焼いて米に乗せ、きのうの残りである鍋とあわせて卓へ。そとで落ち葉を掃いていたらしい母親がはいってくるとサラダもあるというのでそれも。大根とニンジンをこまかくスライスしたうえに生ハムを乗せたもの。新聞からは中国の六中総会で第三の歴史決議がなされ、習近平の威光が毛沢東・鄧小平とならぶものとして確立したという記事などを読んだ。ものを食べ終えると食器を洗い、風呂も。きょうも風呂場の窓をあけてみると、きのうと違ってとなりの空き地の黒っぽいシートのうえには無数の落ち葉の黄色が点じられてあるが、そのほかは、道路をすべて覆っている日なたの池といい、石塀のうえに投影された電柱の分身(子どもがクレヨンをつかって船のマストとその周りの付属具を描いたように見える)といい、きのうとおなじである。出ると帰室。
  • コンピューターを用意して「読みかえし」、その後に書見。母親が車でおくってくれることになっていた。
  • 出勤までのことはわすれた。たぶんだいたい書見をしていたはず。蓮實重彦『「私小説」を読む』(講談社文芸文庫、二〇一四年/中央公論社、一九八五年)。出るまえにヤマザキの「薄皮クリームパン」(ちいさめの丸っこいクリームパンが筒に詰めこまれたスライムみたいに五個セットでひとつのパッケージにおさめられたもの)をひとつふたつ食ったのだったか? わすれた。一時五〇分に出発した。出発ギリギリまできょうのことを記していたのはおぼえている。だらだら本を読むことを優先してきょうのことを綴っておらず、もう時間がなかったので現在時に追いつくことはできず、うえの三段落目がみじかく切れているのはそういうことだ。そとに出て、母親が出してきた車の後部に乗る。道中の記憶はとくにない。母親は買い物のために外出したのだが、ついでに(……)まで行って映画を見てきたいらしく、それが二時二五分からとかでもうあまり猶予がないので、駅のほうまでははいらず大通りでこちらを下ろしたかったようで、信号が赤になればいいけどとか漏らしていたところ、じっさいに都合よく駅前にはいるT字の分岐点のてまえで信号にひっかかったので、じゃあここで降りるわと礼を言って車を出た。天気はきわめて良い。T字の縦棒(そのさきに駅がある)の根もとを横切るかたちの横断歩道がいま青になっていたが面倒臭いので脚を急がせずにそこまで行き、赤になった信号がもういちど変わるのを待った。通りのむかいには数人そぞろあるいているなかに、T字の上の横線を縦にわたる方向の横断歩道を待っている若い夫婦があって、ベビーカーをともなっているので夫婦とわかったのだが、そういうすがたや穏和でのどかそのものといった空気のあかるさを見ていると土曜日の昼下がりというにおいがかんじられてくる。右手の南にむけて視線をはなてばかなたの山のすがたはほとんど薄れても濁ってもおらず、まなざしがそこまでいたるあいだに無数の大気の積層が分厚くはさまれていることをかんじさせず、空気の透明さ澄明さがよく理解される。真っ青にひらいたそのうえの空はじぶんがいまいる通りの近間にそびえたマンションのきわまで夾雑なしでひとつながりにつづいているが、そのねずみ色っぽいビルの輪郭も水のように明快な青にせまられくっきりかたどられている。信号の変わった横断歩道をわたっていると、祭りで鳴らされる鉦みたいな、なにか金物の打音が聞こえて、すぐに、たぶんここのビルだな、喫茶店でなにかやっているのかもしれない、と目の前の二階に音源が同定されて、直後に太鼓的なパーカッションも聞こえたが、ビルの入り口のまえを通り過ぎるときに視線をやってみると、サルサバンドが演奏をするという看板が見えた。駅前に配されたイチョウの樹はまだおおかた緑をのこしていて、変色しているとしても端がわずかに褪せてきているのみが大半だが、パン屋の目の前あたりにある一本だけ、よそおいをほぼ黄色くあらためていた。
  • 勤務。(……)
  • (……)
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