2021/12/21, Tue.

 野の花

 あなたは何をいっているの?
 永遠の命が欲しい? あなたの持っている考えが
 本当にそれほど魅力的かしら? もちろん
 あなたはわたしたちを見ることも聞くこともしない。
 あなたの皮膚についた
 太陽のしみ、黄色いキンポウゲの粉。わたしは
 あなたに話しているのよ。高く伸びた草の間で
 小さながらがらを振りながら
 その向こうに目を凝らしているあなた――
 自分の魂のことばかり心配しながら!
 内面を見つめるだけで満足していていいわけ?
 人間を軽蔑するのはそれとして、なぜ
 あなたはこの広大な野を見くびるの?
 野生のキンポウゲの冴えた頭の上に視線を泳がせ、
 何を見ているのかしら? 天国についての
 あなたの貧困な考え、それは移り変わりの不在。
 地上よりいいところですって?
 わたしたちの中に突っ立って、その心は
 こちらにもあちらにもないあなたのような人に
 一体何がわかるというの?



 FIELD FLOWERS

 What are you saying? That you want
 eternal life? Are your thoughts really
 as compelling as all that? Certainly
 you don’t look at us, don’t listen to us,
 on your skin
 stain of sun, dust
 of yellow buttercups: I’m taking
 to you, you staring through
 bars of high grass shaking
 your little rattle――O
 the soul! the soul! Is it enough
 only to look inward? Contempt
 for humanity is one thing, but why
 disdain the expansive
 field, your gaze rising over the clear heads
 of the wild buttercups into what? Your poor
 idea of heaven: absence
 of change. Better than earth? How
 would you know, who are neither
 here nor there, standing in our midst?

 (ルイーズ・グリュック/野中美峰訳『野生のアイリス』(KADOKAWA、二〇二一年)、54~55)



  • 一一時二〇分起床。上階へ。ジャージにきがえる。きょうも南の山のうえに雲が見られず薄水色だけがさらさらとひろがっている快晴。洗顔やうがいをすませ、前夜フライパンにのこしておいた煮込みうどんを丼へ。食事。新聞は国際面。チリで三五歳の若い左派のひとが大統領に当選。ガブリエル・ボリッチというひとで、学生運動のリーダーとして名を馳せ、その後そのまま政界入りして活動してきたという。事前には得票は右派と拮抗してどちらにころぶかわからないといわれていたようだが、じっさいにはボリッチが五五パーセントを得て一一パーセントひきはなしたと。香港では立法会の選挙がおこなわれて親中派がほぼ全議席を支配することとなった。民主派でゆいいつ当選したのは、かつて民主派の最大政党だった民主党の副主席だったというひと。そもそも立候補がみとめられていたのがおどろきだが(あえてみとめた?)、この制度下でなにがどこまでできるのか不明。投票率は最終的に三〇パーセントほどで、民主派の中心人物は、暴政と民意をないがしろにする制度にたいする市民の憤りの結果だ、政府にとってはひとつの挫折にちがいない、みたいなことを表明したが、香港政府は目標達成を強調し、投票率のひくさについても一三五万人ものひとが投票したと強弁したと。中国共産党は「一国二制度下の香港統治について」みたいな題の白書を出し、一九九七年いぜんの英国統治下の香港においては「民主」は存在しなかったこと、共産党があたらしく「民主」をととのえたこと、香港や中国の統治を乱す人間を政治の場に入れてはならないことなどを主張し、立法会は事実上香港政府の追認機関になるように勧告したと。アメリカではバイデン政権の目玉である大型財政支出法案(一〇年間で二〇〇兆円の規模)が頓挫しそうだと。ジョー・マンチンという民主党上院議員が反対を明言して、上院はいま五〇議席ずつで勢力が伯仲しており、議長役の副大統領の投票でかろうじて民主党が上回ることができるという状況なので、ひとりが反対するだけでも法案は成立しなくなる。ジョー・マンチンは保守的な風土のウェストヴァージニア州選出であり、過去には知事などもつとめてきたらしく、電力会社やエネルギー・資源方面に影響力をもっており、そういった支持層をかんがえると今回の法案に賛成できないということのようだ。かれの反対で法案はたびたび修正されており(電力会社へクリーンエネルギーを促進させるような規定などがなくなった)、先日にはバイデンがみずからはなしあいをもって、建設的かつ生産的な議論だったと表明していたところに明確な反対を発表されたので、はなしあいのときのことばと違うではないか、裏切りである、という反発がホワイトハウスや党内左派からあがっている(とくに左派は、いままでマンチンの要求にいろいろ譲歩してきたのに、という不満があるだろう)。共和党にとってはマンチンのうごきは救いの手のようなものであり、とうぜん歓迎している。ここで目玉の法案が不成立になれば、政権不信をまねき、来年の中間選挙におおきくひびきかねないとのこと。
  • 皿や風呂を洗って白湯をもって帰室。きょうのことをここまでしるして一時。きょうもまた三時には出なければならない。くわえて今週は日曜日まで勤務のない日がないのでいそがしい。結婚式に行っていろいろ書くことがある一八日の記事がまだぜんぜんつづれていない。勤務後に書こうとしても疲労で駄目なので、やはり夜ふかしせずにさっさとねむって早起きし、回復した状態でやるのがいいのだろうが、なかなかそうできない。
  • 往路。三時直前。玄関を出ると、知らない人間だが老いた男女三人がはなしながら道をやってきたのでこんにちはとあいさつした。あちらの雰囲気はわりとほがらか。どこからか知らないが、けっこうな距離を散歩にきたのではないか。(……)さんともひさしぶりに遭遇。階段のうえ、宅の戸口にあらわれていたのであいさつをおくった。時刻は三時なので陽射しがまだ道のうえにたくさんそそいでまばゆさで視界をつぶしてくる。坂に折れてのぼっていくとこもれびもまだ色がうすくさらさらとした感触で、みぎての土壁におおきくかかったり、ひだりての木立ちのなかを浮遊して緑葉をはなやがせたり、ガードレールの影を路上に几帳面に引き出したりしている。空はまったき水色、トナカイや鹿の角をおもわせる枝分かれをした裸木がこずえをそのさわやかな水のなかへつきあげ浮かべて、枝の側面に白さを受けて塗っていた。最寄り駅にはハイキングすがたの高年がいくらか。ホームにわたってすすんでいくと、ホーム上に日陰はおりおりの柱が生み出すそれのみで、かすかに青さをはらんだようなその影はホームのうえのみならずそのしたの線路にもかかり、さらに越えておのおの側道にまでおよんでおり、ななめにはしりながらところどころで交差して帯模様をつくりだしている。
  • 勤務。(……)
  • (……)
  • 夜になぜなのかAerosmithの”Janie’s Got A Gun”がききたくなってきき、ほかも二、三曲、またBill Evans Trioもちょっと聞いたのだが、どんな音楽でも、というのはいいすぎだとしても、じぶんの好みにあまりにも背反せず、ある程度の質が確保されているかぎりで、じっくりきけば音楽ってなんでもおもしろいんじゃないかとおもった。